最終年度の研究目的は、ゲノム編集によってセロトニン合成酵素であるTPH2の遺伝子もしくは小胞性グルタミン酸トランスポーターVGLUT3の遺伝子をノックアウトし、セロトニンとグルタミン酸のどちらがこれまで観察してきた行動に関与するのかを探ることであった。その予備検討として免疫染色によるタンパク発現の欠損確認を行い、TPH2に関しては背側縫線核選択的にゲノム編集によってTPH2発現を減少させうることを確認できた。TPH2の遺伝子ノックアウトにはsaCas9を用いた。同様にsaCas9を用いてVGLUT3のノックアウトを試みたが、VGLUT3については設計したguide RNAのいずれにおいてもゲノム編集を生じさせることが出来なかった。そこで、spCas9に変更して再度guide RNAを設計した。幸いspCas9では遺伝子ノックアウトが確認できたため、セロトニン神経選択的にVGLUT3をノックアウトさせる方法の確立に取り組んだ。当初は当研究室で所有しているTph2-tTAマウスの使用を考えたが、ウイルスベクターでtetOプロモーターを導入した発現では選択性が保証できないことが予備検討で示された。そのため、海外の研究機関からセロトニン神経選択的にCreタンパクを発現するSERT-Creマウスを導入し、cre依存的にspCas9を発現させることでセロトニン神経選択的なVGLUT3のノックアウトを試みることとした。動物の輸入に時間を要したためにノックアウトを試すには至らなかったが、これらのマウスを用いることでセロトニン神経選択的にspCas9が発現していることまでは確認できた。
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