研究課題
精神病性障害の発症危険群(at-risk mental state; ARMS)の基準を満たす症例および初回エピソードの統合失調症患者を対象に脳磁気共鳴画像検査、T&Tオルファクトメーターを用いた嗅覚機能検査、および事象関連電位といった生物学的検査に加え、症状評価、社会機能評価、認知機能評価等を行い症例蓄積を継続している。これらの症例の臨床経過は専門外来においてフォローしており、定期的に症状や認知機能などを評価している。頭部MRI検査において、ARMS群全体では健常対照群と比較して松果体体積減少(Takahashi et al., 2019a)、尾状核体積増大、嗅溝形態の変化(Takahashi et al., 2019b)といった脳形態学的変化がみられた。一方、これらの脳形態変化は後に精神病性障害に移行したARMS群(発症群)と移行しなかった群(非発症群)で有意差を認めず、また他の精神疾患である境界型パーソナリティ障害群においても一部類似の所見がみられた(Takahashi et al., 2019c)。嗅覚機能検査において、ARMS群全体では健常対照群と比較して嗅覚機能障害を認めたが、ARMS発症群と非発症群の間に有意差を認めなかった(Takahashi et al., 2019b)。なお嗅覚機能と脳形態(嗅溝形態)の間に有意な相関がみられた。脳波検査では、ARMS群全体でミスマッチ陰性電位の振幅低下がみられ、またARMS発症群では非発症群と比較して振幅低下の程度が有意に大きかった。上記の結果から、ARMS症例では脳形態変化や嗅覚機能障害を認めるものの、これらの所見が将来の発症予測に有用とは言えず、また疾患特異性の検討を要すると考えられた。しかし、今回の検討で脳形態特徴を調べた脳部位は限られ、今後は例数を増やした上でさらに広範な解析が望まれる。一方、脳波所見に関しては発症予測性が示唆され、臨床応用に向けてさらにデータ蓄積を行いたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
順調に症例蓄積を継続すると共に、生物学的指標と臨床指標の関連を横断的に検討できている。今年度は特に脳形態特徴についての解析を進めることができた。嗅覚機能についても、ARMS群や統合失調症群において症状の重症度や認知機能と関連することを既に見い出している。一方、事象関連電位についてはデータ蓄積自体は順調であるが、解析は若干遅れている。
脳形態の進行性変化の評価および予後指標の評価のためには、対象者をいかに確実に臨床的にフォローアップするかが重要となる。引き続き、附属病院における専門外来との連携を緊密に保ちながら確実なデータ収集に努めたい。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 3件)
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