研究実績の概要 |
精神病性障害の発症危険群(at-risk mental state; ARMS)の基準を満たす症例および初回エピソードの統合失調症患者を対象に脳磁気共鳴画像検査、T&Tオルファクトメーターを用いた嗅覚機能検査、および事象関連電位といった生物学的検査に加え、症状評価、社会機能評価、認知機能評価等を行い症例蓄積を継続している。これらの症例の臨床経過は専門外来においてフォローしており、定期的に症状や認知機能などを評価している。 頭部MRI検査において、ARMS群全体では健常対照群と比較して側頭平面の形態変化を認めず、統合失調症群で報告される同部位の所見は発症に伴い経時的に生じる変化であると類推された(Takayanagi et al., 2020)。 これは統合失調症の病態に深く関わる島回の体積減少が病初期に進行性にみられる所見(Takahashi et al., 2020a)とも一致する。一方、ARMS群では皮質下構造の形態異常を認め、これらは病前からみられる脆弱性を反映する所見と考えられた(Sasabayashi et al., 2020)。一方、精神病への脆弱性を表すと考えられた松果体体積の減少は一部の大うつ病性障害群にもみられ(Takahashi et al., 2020b)、脳形態変化の疾患特異性についてはさらに検討が必要と思われた。なお統合失調症群と健常群を脳形態に基づき自動判別するアルゴリズムは概ね確立できており(Yamamoto et al., 2020; Nemoto et al., 2020)、今後はARMS群の発症予測や統合失調症の予後予測に応用していきたい。脳波検査では、ARMS群のなかでも将来精神病に移行する群で事象関連電位(特にミスマッチ陰性電位とP300)の変化が大きいことを示唆する予備的な結果が得られた。嗅覚機能検査については新型コロナ流行に伴い検査中止としており、新たなデータ収集は行っていない。今後さらに症例を蓄積しながら研究を進めることで、生物学的所見による精神病性障害の予後予測法の確立を目指したい。
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