研究実績の概要 |
最終年度の成果として、脳磁気共鳴画像(MRI)検査により、精神病性障害の発症危険群(at-risk mental state; ARMS)において統合失調症群と同程度の松果体体積減少がみられること(Takahashi et al., 2022a)やヘシュル回(Takahashi et al., 2022b)や島回(Takahashi et al., 2022c)の粗大形態特徴が統合失調症群における早期神経発達障害を反映する固定的な所見であることなどを見出した。ARMS群における背外側前頭前野の体積減少は後の精神病発症と関連していた(Takayanagi et al., 2022)。また初発統合失調症群の局所脳回指数上昇は後の再燃リスクと関連した(Sasabayashi et al., 2022)。 研究期間全体を通して、ARMS群にみられる脳形態と臨床特徴(特に後の精神病発症や機能的転帰)に関する多くの知見を見出し、脳波検査では事象関連電位(特にミスマッチ陰性電位とP300)の変化がARMS群における将来の精神病移行や初発統合失調症群における将来の寛解を予測しうる生物学的指標であることを示した。一方、嗅覚機能検査についてはCOVID-19の流行に伴い検査施行が困難となり、新たなデータ収集を行うことができなかった。これらの成果を踏まえ、本研究計画の主要な目的である生物学的指標の組み合わせによるARMS群の発症予測を機械学習アルゴリズムを用いて行なった。その結果、認知機能、脳形態MRI所見、事象関連電位などを用いた予測式において、単一モダリティによる予測正診率が70%台に留まるのに対して、すべてのモダリティを組み合わせた際の予測正診率は92.5%であった。これにより多面的な生物学的指標の組み合わせが精神科早期診断に有用であることが示唆された。
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