研究課題/領域番号 |
18K07560
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
寺田 整司 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (20332794)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 知的障害 / 認知症 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
初年度に引き続き2年目も大きな成果を得ることが出来た. 3つの社会福祉法人から協力への快諾を得て,最終的には知的障害者施設28カ所から参加の同意を得た.書面による同意の得られた対象者全員について,施設職員により調査票(DSQIIDを含む)への記入を実施してもらった.その後,28カ所の施設全てを3名の専門家が訪問した. 最終的には,全体で493人が対象となった.平均年齢は46.6歳で,男性が311名,女性が182名であった.知的障害の程度は,軽度が60人,中等度が135人,重度が298人であった.なお,493名のうち,ダウン症が34名,それ以外の知的障害者が459名であった.ダウン症の患者における認知症有病率は,46-55歳では42.9%,55-64歳では66.7%であった,ダウン症を有しない知的障害者において,認知症の有病率は,46-55歳では0.8%,55-64歳では3.8%,65-74歳では14.7%であった.ダウン症を有しない知的障害者において,軽度認知障害の有病率は,46-55歳では3.1%,55-64歳では3.8%,65-74歳では2.9%であった.ダウン症を有しない知的障害者における認知症有病率は,一般人口で観察される率よりは明らかに高頻度を示していた. 2019年8月にグラスゴーで開催されたIASSIDD 2019 (World Congress of the International Association for Scientific Study of Intellectual and Developmental Disability)にて,結果の詳細を報告した.また国内でも,2019年6月に日本老年精神医学会(仙台市),11月に認知症学会(東京都新宿区)で発表した.英語論文としても報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目に,調査の概略的な結果を,1つの国際学会および2つの国内学会で発表することが出来たことは大きな成果である.結果の詳細については上記に記載した通りであり,重複する部分も多いが,実際の調査方法について下記に記載しておく. 対象者全員について,施設職員により調査票(Dementia Screening Questionnaire for Individuals with Intellectual Disabilities, DSQIIDを含む)への記入を実施してもらった.その後,28カ所の施設全てを数ヶ月かけて,3名の専門家(認知症専門医,老年精神医学専門医,遺伝研究者・医師)が訪問した.1日に1-2カ所のペースで訪問した.訪問時には,全対象者について,スタッフの記入した調査票を詳細に調査し,未記入部分や不明な点については施設スタッフに直接に問い質し,対象者の詳細を把握することに努めた.調査票および施設スタッフとの面談により,認知機能低下の可能性が僅かにでも疑われる例については,全例について3名の専門家が実際に診察を実施した.この調査方法は,今までに報告されている研究のなかでも,最も厳密な方法で調査を実施したものである. なお,本研究実施に当たっては,家族からの書面による同意は必須とし,本人に同意能力があると推測された場合には本人からの同意も必須とした.本調査の主要評価項目は,知的障害者における年齢別の認知症罹患頻度とし,認知症診断については,DSM-5・ICD-10・DCLD(Diagnostic Criteria for Learning Disability)を使用した.
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今後の研究の推進方策 |
集積したデータについては,いまだ概略のみが入力されている状況である.そのため,令和2年度には,研究補助者を雇用し,詳しいデータを全て入力していく.そして,その結果に基づいて,より詳細な検討を行う予定である.具体的には,DSQIIDなどの調査票についても,その有用性を検討していく.DSQIIDは,もともとダウン症患者における認知症スクリーニング用に開発されたスケールであり,ダウン症以外の知的障害者においても有用ではないかと(原著者らは)記載しているが,ダウン症以外の知的障害者を対象とした調査は全く実施されていない状況である.実際に使用し,その有用性を検討するとともに,より簡便なスクリーニング法の開発にも努めたいと考えている.知的障害者における認知症をスクリーニングするための評価票などは世界でも全く報告されていないため,非常に有益な研究である. さらに,知的障害者における認知症頻度を調査するための,全国的な調査実施も計画している.これは,1,000人を超える規模での調査実施を考えており,世界的に見ても,過去最大規模の調査となる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成31年度は,結果の概略をまとめ,国際学会や国内学会で報告し,さらに英語の論文としても報告した.非常に意義のある調査であったと考えているが,研究補助者の雇用などはなく,コンピュータや統計ソフトの購入も未実施であり,研究費の使用額としては少額で済んだ. (使用計画) 令和2年度は,データ入力および施設間の連絡事務などのために,研究補助者の雇用を予定している.データ入力は既に実施している調査の詳細を入力してもらう.また,施設間の連絡事務は,これから実施しようとしている全国規模の調査の下準備となる.また,コンピュータや統計ソフトの購入も予定しており,繰り越した金額を含めて,来年度の予算を組んでいる.さらに,関連する書籍や文献入手のための予算や,さらに学会発表・論文投稿も予定しており,そのための費用や雑費も予算に含めている.
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