これまでうつ病で機能異常が示唆されている機能ドメインにおける神経回路機能の個人差を安静時fMRIから予測する手法を確立するため、2018年度は報酬予測に関わる腹側線条体の賦活機能と安静時fMRI脳領域間機能的結合データの関連について、2019年度は遂行機能に関わる背外側前頭前野の賦活機能と安静時fMRI脳領域間機能的結合データの関連について検討した。その結果、それぞれの機能ドメインにおける神経回路機能の個人差を安静時fMRIから予測できることが明らかになった。最終年度である2020年度は、安静時fMRI指標を用いたうつ状態バイオタイプの同定に向けて、うつ病患者39名と健常対照者39名を対象に、安静時fMRIにおける機能的ネットワークの変化、およびそのうつ症状との関連を検討した。その結果、うつ病患者群では健常対照群と比べて左背外側前頭前野と両側帯状回および外側前頭前野に広がるネットワークの機能的結合が有意に低下しており、その機能的結合性はBDI-II(ベック抑うつ質問票)の認知的要素の点数と負の相関がみられた。これらの結果から、うつ病では左背外側前頭前野を含むネットワークで機能的結合性の低下がみられ、その変化は認知面の症状の個人差と関連していることが示唆された。患者の負荷が少ない安静時fMRIを用いて、認知機能や報酬予測機能と関連する機能的ネットワークの評価を行うことは、症状の特徴と関連するうつ状態のバイオタイプ同定の一助となるものと考えられた。
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