研究実績の概要 |
Munc18-1タンパク質(遺伝子Sxbp1)は神経シナプスに局在し神経伝達物質放出に必須の分子である。ヒトを対象とした大規模遺伝子解析によりこの遺伝子の変異がてんかん,知的障害をはじめ神経発達障害や精神神経疾患において広く報告されている。しかし、どのようにしてシナプス伝達の変化がこれら疾患に至るのかは不明である。申請者はStxbp1欠損マウスの記憶障害,攻撃性の亢進および攻撃性の薬理的緩和を見出した(Miyamoto et al., 2017)。本研究はStxbp1マウスなどをモデルとしてシナプス伝達異常による攻撃性亢進の分子・神経機構を統合的に解明し、精神疾患に伴う攻撃性の緩和への治療戦略へと結びつけることを目的としている。 攻撃性は様々な発達障害,精神疾患でも頻繁に観察され、てんかんにも種々の精神症状とともに攻撃性がともなうことがある。神経機構の解析過程においてStxbp1マウスは顕著なてんかん症状を示すことが分かった。さらに大脳皮質から線条体への興奮入力の低下がてんかんとしての脳回路の活動異常を引き起こす原因であることを突き止め報告した(Ogiwara, Miyamoto et al., Commun Biol. 2018, Miyamoto et al., Nat Commun. 2019)。大脳基底核もまた種々の精神症状に関与することが知られており、皮質-線条体経路の異常が攻撃性などの行動異常に結びつく可能性が示唆された。さらにStxbp1マウス脳へ局所的にCX516(興奮性シナプス伝達を使用依存的に促進する)を投与して攻撃性への効果を測定するとともに、その他薬物による攻撃性への効果も併せて検証した。最終年度においては今後の研究展開を踏まえ、脳活動をリアルタイムで分析し脳にフィードバックすることで対象行動の長期的変容をもたらす生理学的方法を検討し準備を進めた。
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