研究課題
概日リズム睡眠-覚醒障害は望ましい時間帯に入眠して覚醒することが困難となる疾患で、生物時計システムの入力・時計本体・出力に関連する機能の何らかの障害によって生じると考えられている。いくつかのサブタイプが存在するが、時計システムそのものに障害があると考えられる原発性の睡眠-覚醒相前進障害、睡眠-覚醒相後退障害、非24時間睡眠-覚醒リズム障害、不規則睡眠-覚醒リズム障害と、人為的・社会的理由により内因性の生物時計と外界環境の睡眠-覚醒リズムが大きくずれてしまうことによって生じる二次性の時差障害(時差ぼけ)、交代勤務障害の二つのグループに分けられる。前者のグループは、生物時計システムに関わる一つもしくは複数の機能障害により発症すると考えられている。一方、後者は二次性の睡眠障害であるため内因性の睡眠-覚醒リズムが外界環境に同調することで治癒もしくは改善するが、生物時計の一過性もしくは慢性的な調節障害が原因と考えられている。そこで、原発性概日リズム睡眠-覚醒障害に着目し、時計遺伝子PER3反復配列多型が遺伝マーカーとなるかどうかを検討した。睡眠-覚醒相後退障害、非24時間睡眠-覚醒リズム障害、一般生活者について時計遺伝子PER3反復配列多型のタイピングを行い、このPER3反復配列多型と概日リズム睡眠-覚醒障害ならびに一般生活者において朝型夜型指向性との関連性を調べたが、日本人集団においては有意な関連性は認められなかった。このことから、PER3反復配列多型は、概日特性や睡眠特性の普遍的な遺伝マーカーではないと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
概日リズム睡眠-覚醒障害は生物時計システムの何らかの機能障害によって生じると考えられているが、その発症メカニズムが明らかになっていないだけではなく遺伝要因も同定されていない。睡眠-覚醒相後退障害180人、非24時間睡眠-覚醒リズム障害68人、一般生活者925人について時計遺伝子PER3反復配列多型のタイピングを行い、このPER3反復配列多型と概日リズム睡眠-覚醒障害ならびにコントロールにおいて朝型夜型指向性との関連性を調べた。今までにPER3反復配列多型は種々の概日特性や睡眠特性と関連性が報告されていたが、日本人集団においては有意な関連性は認められず、PER3反復配列多型は概日特性や睡眠特性の普遍的な遺伝マーカーではないことを明らかにした。
今後は、概日リズム睡眠-覚醒障害の遺伝要因を探索する予定である。原発性概日リズム睡眠-覚醒障害のサブタイプである非24時間睡眠-覚醒リズム障害は、入眠・覚醒時刻が毎日30分から1時間ずつ遅れるため定まった時刻に寝起きすることができない。睡眠時間帯が遅れ続けるため昼夜の生活が逆転してしまう期間が生じ、社会生活への適応が著しく困難になる一般集団では非常に稀な疾患である。非24時間睡眠-覚醒リズム障害を対象に睡眠や生体リズムに関連する遺伝子のDNA配列解析を行い、患者群に存在するバリアント(単一塩基置換、挿入、欠失)を検出する。さらに研究対象者を増やし、検出された既知ならびに新規のバリアントと疾患の関連性の検証を進め、特に強い関連性が認められるバリアントについては機能解析に取り組む。
決まった遺伝子や決まった多型の解析だけではなく、より探索的なアプローチによる解析を推進するため、次年度使用額が発生した。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Human Genome Variation
巻: 5 ページ: 17
10.1038/s41439-018-0017-7
J Hum Genet
巻: 63 ページ: 1259,1267
10.1038/s10038-018-0518-8
CLINICAL NEUROSCIENCE
巻: 36 ページ: 1107,1108