研究実績の概要 |
これまで雄マウスの仔マウスに対する養育か攻撃かの行動選択に大きく寄与する内側視索前野の入力元を探索してきた。その一つである扁桃体海馬野の活性化により攻撃行動が促進された(Sato, 2020)。また本研究と同時期に他のグループから扁桃体海馬野が雄間攻撃に寄与するとの報告があり、これらの報告では扁桃体海馬野から視床下部腹内側部への投射が注目されていた(Zha, 2020, Yamaguchi, 2020)。以上より扁桃体海馬野は様々な脳領域に投射して社会行動選択に寄与する可能性が示唆されたと言える。 分界条床核菱形核は雄間攻撃によっては活性化されない一方で、仔マウスを攻撃することで活性化することが示唆されている(Tsuneoka, 2015)。そこで本年度は扁桃体海馬野から分界条床核菱形核への神経投射について解析を行った。まず分界条床核菱形核に逆行性ウイルスベクターrAAV2-EGFPを微小注入し、扁桃体海馬野に加え扁桃体基底外側核、基底内側核、視床、大脳皮質運動野などが蛍光タンパク質標識されることを確認した。さらに雄マウスの攻撃行動と関連が深いことを報告した(Fukui, 2019)エストロゲンの受容体Esr1との共染色パターンを評価したところ、扁桃体海馬野は分界条床核菱形核への投射元のうち最も高確率にEsr1を発現する脳部位であることが示された。 扁桃体海馬野から分界条床核菱形核への投射シナプス機能を評価するために、AAVベクターを用いて扁桃体海馬野に光感受性イオンチャネル・チャネルロドプシンを発現させた。このマウスから脳スライス標本を作成し、分界条床核菱形核細胞から記録中に青色光照射することでグルタミン酸作動性シナプス電流が確認された。また去勢手術を施したマウスではシナプス電流が観察される確率が低下した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで明らかにしてきた扁桃体海馬野の機能や投射先については、同時期に報告されたものとおおむね一致した結果が得られている(Zha, 2020, Yamaguchi, 2020)。さらに扁桃体海馬野が内側視索前野だけでなく分界条床核菱形核の上流神経回路に位置しており、そのシナプス接続が性ホルモンによって制御されることが見出されるなど、順調に結果を積み重ねている。 性ホルモンによる行動変化と扁桃体海馬野-分界条床核菱形核経路のシナプス機能変化との間に相関が見られていると言えるが、性ホルモンは全身で広く作用することも考慮する必要がある。今後、因果関係をより明確に示していくための研究がさらに必要がある。 以上より、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
|