研究実績の概要 |
我々は養育行動に影響を及ぼす分界条繊維の解析を行ってきた。仔マウスに対する攻撃性を上昇させる機能を持つ扁桃体海馬野の機能を新たに見出して報告した(Sato,2020)。また扁桃体海馬野にはエストロゲン受容体のα型(ERα)が多く発現しており、分界条床核を含む各領域に投射繊維を送っているがその機能や制御メカニズムについては不明であった。 我々は過去に仔マウスに対する攻撃行動に寄与する分界条床核菱形核ではエストラジオールが電気刺激誘発性グルタミン酸作動性シナプス後電流を増強する作用を持つことを報告している。本年度は昨年度に引き続き我々は扁桃体海馬野から分界条床核菱形核へのグルタミン酸作動性投射シナプスに対するエストラジオールの効果を評価するために、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて扁桃体海馬野に光感受性イオンチャネル・チャネルロドプシンを発現させた。このマウスから脳スライス標本を作成し、分界条床核菱形核細胞から記録中に青色光照射したときの興奮性シナプス後電流(oEPSC)を比較した。去勢手術を施したマウスではoEPSCが観察される確率が低下したが、エストラジオールを去勢手術時より持続的に補充するとoEPSCが観察される確率が上昇した。またoEPSCの振幅はエストラジオール処置により有意に上昇した。以上よりエストラジオールは扁桃体海馬野―分界条床核菱形核経路シナプスの機能維持に寄与する可能性が示された。これらの研究成果を2020年度までに行った行動試験、神経経路解析結果とあわせNeuropharmacology誌に投稿し、査読を経て受理された(Fukui, 2022)。
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