研究課題/領域番号 |
18K07588
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
切原 賢治 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80553700)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 統合失調症 / ハイリスク / 思春期 / 脳波 / オシレーション / ASSR |
研究実績の概要 |
本研究では、統合失調症の早期段階における神経オシレーションの変化を調べるとともに、小児期から思春期における神経オシレーションの発達過程を調べる。両者を対比することで、統合失調症の予防や早期支援に有用な指標を見出すことを目的とする。 統合失調症の早期段階にある者を対象に脳波を用いて聴性定常反応(Auditory Steady-State Response: ASSR)を調べる研究では以下のような結果を得た。統合失調症患者では発症後早期の段階で既にASSRが低下しており、ASSRの低下は1~2年後の全般的な重症度を予測した(Koshiyama et al., Clin Neurophysiol, 2018)。統合失調症患者におけるASSRの低下は、統合失調症で機能低下があると考えられているN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体機能を反映するミスマッチ陰性電位(mismatch negativity: MMN)の低下と相関した(Koshiyama et al., Transl Psychiatry, 2018)。一方、明らかな精神病症状を示さないものの軽度の精神病様症状があるなどして精神病を発症するリスクが高いと考えられる者でもASSRを測定した。その結果、ハイリスクにある者でもASSRが低下していた。しかし、ハイリスクにおけるASSRの低下は1~2年後の重症度を予測せず、NMDA受容体機能を反映するMMNの低下とも相関しなかった。これらの結果から、ASSRは統合失調症の早期段階で変化しているが、統合失調症を発症した者と明らかな精神病症状を示さずハイリスクにある者とでその臨床的意義や生物学的メカニズムが異なることが示唆された。 小児期から思春期にある者を対象にASSRを調べる研究は現在進行中でデータ収集するとともに一部を解析しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合失調症の早期段階にある者を対象にする研究について当初の計画では、統合失調症患者、ハイリスクにある者、比較対照として健常者をリクルートし、脳波を用いてASSRを計測するとともに臨床症状および認知機能を評価する。脳波計測や臨床評価は1年おきに行い、他の指標との関連を調べるといったことを3年間の研究期間で行う予定だった。1年目が終了した時点ですでに縦断的な解析結果について論文発表し、他の指標であるMMNとの関連解析についても論文発表した。そのため統合失調症の早期段階にある者を対象にASSRを調べる研究については当初の計画以上に進展していると考えられる。 小児期から思春期にある者を対象にする研究について当初の計画では、東京ティーンコホートの参加者を対象にリクルートし、脳波を用いてASSRを計測するとともに心理や健康に関する指標を調べる。脳波計測は2年おきに行い、心理や健康に関する指標との関連を調べるといったことを3年間の研究期間で行う予定だった。現時点ではデータ収集および解析している段階だが、1年目が終了した時点であることを考えると進捗は予定通りと考えられる。 以上を合わせて全体としてはおおむね順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
統合失調症の早期段階にある者を対象にする研究については、今後も統合失調症患者、ハイリスクにある者、比較対照として健常者をリクルートし、脳波を用いてASSRを計測するとともに臨床症状および認知機能を評価し、脳波計測や臨床評価は1年おきに行い、他の指標との関連を調べるといったことを引き続き行う。得られた結果から、他の指標との相関などについてさらに解析を進め、学会発表や論文発表を進めていく。 小児期から思春期にある者を対象にする研究については、東京ティーンコホートの参加者を対象にリクルートし、脳波を用いてASSRを計測するとともに心理や健康に関する指標を調べ、脳波計測は2年おきに行い、心理や健康に関する指標との関連を調べるといったことを引き続き行う。データが一定程度収集できた時点でまずは横断面での解析を行い、学会発表や論文発表を行う。進捗状況によっては縦断面での解析を進めることも検討する。 なお、統合失調症の早期段階にある者を対象にする研究と小児期から思春期にある者を対象にする研究の両方においてMMNも測定しており、MMNについての解析も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進んだが、電極の劣化が予想していたほど進まなかったこと、過去に購入した消耗品で使用可能なものがあったことなどから次年度使用額が生じた。 次年度の研究費は、劣化した電極の買い替え、脳波測定に必要な消耗品、参加者への謝金、測定や解析に必要なPCやソフトウェア、学会発表の際の旅費や論文発表の際の英文校正や投稿料、その他印刷費などに用いる予定である。
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