研究課題/領域番号 |
18K07592
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
朱 紅 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 博士研究員 (90778614)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / ミクログリア |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症モデル動物の作製を行った。妊娠7日前後のラットを業者から購入し、妊娠12日前後にバルプロ酸 (valproic acid: VPA)あるいは合成二本鎖ポリヌクレオチド polyriboinosinic-polyribocytidilic acid [poly(I:C)]を母体に静脈注射し、まず仔ラットが出生することを確認した。VPA モデルは出産に至らないことが頻回にあり、中止した。 次に、胎児脳の遺伝子発現変化を調べるためにマイクロアレイ解析を行った。poly(I:C)あるいは生理食塩巣を母体に静脈注射し、妊娠15日および19日に胎児ラットの脳からRNAを抽出し、遺伝子の発現変化を包括的に検討した。妊娠15日と19日で遺伝子発現変化を比較すると、全体として610遺伝子が共通してレベル上昇し、529遺伝子が共通して発現レベル低下していた。これらのうち、少なくとも2倍以上(p < 0.05)の変動を示す遺伝子が194個含まれていることが分かった。その内訳は、153個の遺伝子で発現レベル上昇、41個の遺伝子で発現レベル低下であった。 また、発現上昇を示した遺伝子の中に、ライソゾーム機能に関連していると考えられるプロテアーゼをコードする遺伝子3種類も観察された。これらの結果により、poly(I:C)による母体炎症モデルは、胎児脳の多数の遺伝子の発現レベルに影響を与えることが示唆される。その中の一部にライソゾーム機能を変調させるものが含まれることも示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
母体感染の動物実験モデルを絞ることができ、マイクロアレイ解析にまで進むことができたから。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、ライソゾームの安定性を調べるための以下の実験を行う。 1.ウエスタンブロット法。ライソゾームの膜タンパク [たとえばlysosome-associated membrane protein 1 and 2 (LAMP-1 and LAMP-2)] は安定性の維持に重要な役割を果たしている。これらのタンパクが崩壊すると、ライソゾーム膜の透過性が亢進し、カテプシンB, D, Lなとのタンパク分解酵素が細胞質に放出される。この考え方に基づいて、以下の実験を行う。新生児期の自閉スペクトラム症モデルラットおよび正常ラットから脳を取り出してホモゲナイズした後、ライソゾームとサイトゾル分画を得る。ライソゾームとサイトゾル各分画をSDS ポリアクリルアミド電気泳動にて分離し、常法によりウエスタンブロット解析を行い、検出バンドを定量比較する。検出に使用する抗体として、抗LAMP-1 抗体、抗カテプシンB 抗体を、定量比較のための内部対照として、抗GAPDH(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase)抗体を使用予定である。 2.組織染色。新生児期の自閉スペクトラム症モデルラットおよび正常ラットを4%パラホルムアミド溶液で灌流してから脳を取り出し、新鮮凍結切片を作製する。常法に従い、蛍光免疫染色を行う。一次抗体として、抗LAMP-1 抗体、抗カテプシンB 抗体、およびミクログリアマーカーとしてのIba1 抗体と抗CD11b 抗体を使用予定である。上記の免疫染色に加えて、アクリジンオレンジ (acridine orange)を用いて染色する。脂溶性アミンのアクリジンオレンジは細胞内、酸性ライソゾームに浸透するため、ライソゾーム安定性の指標となる。 上記で有意な変化が認められた遺伝子産物についても、B)と同様の実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度中に計画していたマイクロアレイ解析の回数が減ったためであり、繰り下げて2019年度に実施する予定である。
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