研究課題
高齢者における術後せん妄は、加齢に伴う脳の脆弱性を背景に、心理・環境因や術後侵襲等が加わることで発症することが知られている。せん妄の発症予防が可能な多職種による支援プログラムによる早期介入が有用であることも知られていることから、早期発見や発症予測に関連した生体指標の確立が望まれている。本研究は、肝切除術等の消化器系手術を施術される患者を対象とし、術前の脳生理機能と術後せん妄発症との関係を検討し、発症を予測する生物学的指標の確立を目指すことを目的とする。最終年度では、これまでに実施した当院の高齢者における消化器外科手術後のせん妄発症を検討した調査の解析を総括した。その結果、術前の認知機能(Mini-Mental State Examination)、活動量計で評価される睡眠-覚醒リズムの乱れがせん妄発症に関連していることが判明した。また、研究者が過去に行った他の施設における高齢者の心疾患患者のデータの解析を進め、近赤外線光トポグラフィーによる前頭側頭部における酸化ヘモグロビンの濃度の変化量を用い、せん妄発症の予測精度を高める特徴量の検討を行った。その結果、心臓手術の術前の注意機能課題を行っている際の特定の脳領域における酸化ヘモグロビンの濃度変化量が術後せん妄の発症予測に有用である可能性が示唆された。これにより、術後のせん妄の発症を70%~80%の精度で予測できることが明らかになった。