研究課題
神経有棘赤血球症 (neuroacanthocytosis) とは、神経症候と有棘赤血球症を併せ持つ病態に対して包括的に使用される用語である。その中核群の代表疾患が有棘赤血球舞踏病 (ChAc) とMcLeod症候群 (MLS) である。ChAcは常染色体劣性遺伝性を呈し、VPS13A遺伝子の機能喪失変異が病因であり、遺伝子産物choreinが欠損する。MLSはX連鎖性劣性遺伝性を呈し、X染色体上のXK遺伝子の機能喪失変異が病因であり、XK蛋白質が欠損する。両疾患ともハンチントン病類似の精神神経症状と有棘赤血球症を呈する稀な遺伝性神経変性疾患であり、臨床症状の酷似性から共通の分子病態の存在が示唆されていた。前年度、6例のMLSの赤血球膜分画において全例choreinの免疫反応が低下していることを突き止め、さらにVPS13Aの強発現細胞を用いた免疫沈降でXK蛋白質とchoreinの共沈を認め、両蛋白質の相互作用が示唆される結果を得た。今回、健常者由来の赤血球膜分画と赤芽球様細胞に分化能を持つ培養細胞K562細胞を用いて、抗XK蛋白質抗体を用いた免疫沈降後、質量分析を行い、XK蛋白質と相互作用する候補蛋白質を同定した。ミトコンドリア関連蛋白質および細胞骨格系蛋白質などがXK蛋白質相互作用蛋白質候補として浮かび上がった。Choreinもミトコンドリア関連蛋白質や細胞骨格系蛋白質と相互作用し、ミトコンドリアの品質保持機構と関与することが示唆されており、XK蛋白質も同様にミトコンドリアの品質保持機構と関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
神経有棘赤血球症の代表疾患である有棘赤血球舞踏病とMcLeod症候群の共通分子機構として、XK-chorein相互作用とchorein蛋白質の発現低下が共通分子機構である可能性を見出したことに加え、XK蛋白質と相互作用する蛋白質がchoreinの分子機構とも深く関与する可能性ある蛋白質群であるミトコンドリア関連蛋白質と細胞骨格系蛋白質であることを見出した。
今後は、XK蛋白質と相互作用する蛋白質群の神経系における発現、局在およびマイトファジーにおける挙動などを観察し、ミトコンドリアの品質保持機構との関わりを解析する。集積してきたChAc患者やMcLeod患者のDNAを用いて相互作用タンパク質をコードする遺伝子についてシークエンシングやCNV解析を含めた包括的変異解析を行い、多型、変異、発現などについてデータベース化した表現型との相関を解析し、症状修飾因子多形や変異を同定する。また、統合失調症や気分障害患者について、同様に相互作用タンパク質をコードする遺伝子の包括的変異解析を行い、気分障害や統合失調症との関連を解析する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件)
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