うつ病性障害ではその難治化が問題となって久しく、新たな病態あるいは疾病分類の設定とその対応がこれまで以上に急務となっている。難治性うつ病性障害群と血中腫瘍壊死因子(TNF)-αとの関連がこれまでに検討されており、1)TNF-αが難治性うつ病性障害の病態生理に関与する、2)難治性うつ病性障害に対する治療薬の作用機所には血中TNF-α低下が関与する、3)TNF-α低下作用により難治性うつ病性障害が奏功する一群が存在する、ことが示唆されている。 そこで本研究では、本研究に同意の得られた少なくとも3種類の抗うつ薬あるいは気分安定薬に治療抵抗性を示した難治性うつ病性障害を60症例を集積し、症状、社会的機能、縦断経過を評価した。更に、前治療薬を固定し抗TNF-α作用を有するラモトリギンによる強化療法を8週間行い、治療前および治療8週後までの2週間ごとにうつ病症状の重症度を定量的に評価した。更に、治療前および治療後に10 mLの採血を行った。そして、8週間目のラモトリギンの血漿濃度を測定し、肝臓のみならず脳にも存在するラモトリギンの代謝酵素であるUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A4およびUGT2B7の活性を規定する遺伝子多型)を同定した。 その結果、UGT2B7遺伝子多型の一つである372A>Gは血漿ラモトリギン濃度には影響を与えないが、ラモトリギン強化療法の治療反応性に少なくとも部分的には関与することを明らかにした。治療前にUGT2B7の遺伝子多型を同定することで、ラモトリギンに対する難治性うつ病障害の治療反応性を治療開始前に予測することが可能となり、難治性うつ病障害に対する新たな治療戦略の一つになりうることを示した。
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