研究課題/領域番号 |
18K07610
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
久岡 朋子 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00398463)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自閉症 / 小脳 / 注意欠如・多動性障害 / シナプス接着分子 / イムノグロブリンスーパーファミリー |
研究実績の概要 |
(1)発達過程、及び成獣の小脳において、抗Kirrel3抗体とシナプスや軸索マーカーに対する抗体を用いて二重免疫染色を行った結果、Kirrel3蛋白の発現が、生後14日齢から成獣にかけて顆粒細胞糸球体シナプス部のNMDAR1陽性の顆粒細胞の樹状突起末端に、生後21日齢から成獣にかけてPSD95陽性の小脳バスケット細胞の軸索終末部(ピンスーシナプス)に認められた。 (2)ピンスーシナプスのマーカーであるPSD95を用いた免疫染色法とウェスタンブロット法により、成獣Kirrel3欠損マウスの小脳を検討した結果、野生型と比べてPSD95陽性ピンスー領域の面積、及びPSD95の発現レベルの有意な増加を認めた。PSD95陽性ピンスー領域の面積とPSD95の発現の増加は、①バスケット細胞軸索終末の軸索同士の接着異常、②バスケット細胞軸索終末のプルキンエ細胞軸索初節部への投射異常、③バスケット細胞軸索の分枝過剰等の可能性が考えられることから、①の可能性を透過電子顕微鏡を用いて、②の可能性をプルキンエ細胞の軸索初節部のマーカーであるAnkyrinGの免疫染色により、③の可能性をNF200の免疫染色とゴルジ染色により検討中である。 (3)成獣の野生型、及びKirrel3欠損マウスの前頭前皮質、視床、小脳、中脳、線条体等のセロトニン濃度やドーパミン濃度を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、いくつかの領域に異常をみいだしており、現在、個体数を増やして解析中である。 ピンスーシナプスはプルキンエ細胞の軸索初節部の活動電位を電気的に抑制していることから、Kirrel3欠損マウスのピンスーシナプス構造異常が小脳プルキンエ細胞の活動電位抑制を障害し、自閉症様行動を惹起している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成獣Kirrel3欠損マウスの小脳神経回路において、ピンスー構造異常を見いだしており、ピンスー構造異常が小脳プルキンエ細胞の活動電位抑制を障害し、自閉症様行動を惹起している可能性が示唆された。発達過程のKirrel3欠損マウスの小脳神経回路の解析は、次年度に変更したが、次年度に行う予定であったKirrel3欠損マウスの脳内各部位におけるセロトニン量、ドーパミン量の測定を先に行っており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)現在、発達過程と成獣の小脳におけるピンスーシナプスの詳細な解析を行っており、さらに、Kirrel3蛋白の発現が強く認められた生後14日齢前後の顆粒細胞糸球体シナプスやプルキンエ細胞の投射先である小脳深部核・前庭神経核の詳細な組織学的・生化学的解析(神経伝達物質やその受容体、及びシナプス足場蛋白の発現レベルや局在の変化の有無の検討)を行う。 (2)発達過程、及び成獣の野生型、及びKirrel3欠損マウスの前頭前皮質、視床、小脳、中脳、線条体等のセロトニン濃度やドーパミン濃度を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、異常を見いだしており、さらに個体数を増やして検討する。異常のみられた領域と小脳シナプス部構造異常との関連性も含めて、発達過程、及び成獣におけるKirrel3欠損マウスの神経回路・シナプス部の組織学的・生化学的・分子生物学的解析を行う。 (3) Kirrel3欠損マウスで認められるASD・ADHD様行動異常(超音波発声回数の異常やオープンフィールドテストにおける多動を伴う常同行動、ロータロッドによる運動学習や常同行動の亢進)により活性化、もしくは抑制される脳部位を、神経活動依存的に発現の認められるc-fos蛋白を指標として、野生型、及びKirrel3欠損マウスで比較する。 (4)野生型、及びKirrel3欠損マウスにADHD治療薬(メタンフェタミン)、双極性障害の躁症状治療薬(リチウム)等を腹腔内投与し、ASD・ADHD様行動異常の改善と活動依存的に発現の認められるc-fosの発現レベルや局在の変化を免疫染色法を用いて検討することにより、ASD・ADHD様行動異常の原因となっている神経伝達障害を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、成獣のKirrel3欠損マウスの解析を行い、発達過程のKirrel3欠損マウスの解析は、まとめて行った方が効率がよいため、それらの使用予定額を次年度に繰り越した。高速液体クロマトグラフィーを用いてKirrel3欠損マウスの脳各部位のセロトニン濃度やドーパミン濃度を測定した結果、いくつかの領域に異常をみいだしており、これらの領域の異常と小脳シナプス部構造異常との関連性も含めて、発達過程、及び成獣におけるKirrel3欠損マウスの神経回路・シナプス部の組織学的・生化学的・分子生物学的解析を、次年度に新たに行う予定であり、これらの資金に使用する。また、来年度中に投稿を予定している論文の校正や論文掲載費用に使用する。
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