研究課題/領域番号 |
18K07616
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
豊島 学 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90582750)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 統合失調症 / カルボニルストレス / iPS細胞 / CRMP2 / 神経発達 |
研究実績の概要 |
生後脳発達期にかけてのカルボニルストレスは、統合失調症の発症脆弱性を形成することが考えられるが、どのような分子メカニズムでカルボニルストレスが神経分化・発達に影響を与えるのかは不明である。我々の予備的解析により、統合失調症の中でもカルボニルストレス負荷が病理に関係する一群(カルボニルストレス性統合失調症)において、CRMP2がカルボニルストレスの重要な標的分子である可能性が示唆された。上記の背景から我々は「胎生期から生後脳発達期にかけてのカルボニルストレスは、CRMP2などの機能分子の正常な機能を阻害することで、神経分化・発達の異常を引き起こし、統合失調症の発症脆弱性を形成する」との仮説を考えた。本研究では、この仮説を基に、カルボニルストレスの消去に関わるGLO1遺伝子を欠損させたiPS細胞(GLO1 KO iPS細胞)を用いて、CRMP2の機能がカルボニルストレスによってどのように変化するかを解析し、カルボニルストレス性統合失調症における神経発達障害の分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度の研究では、GLO1 KO iPS細胞及び健常iPS細胞から神経幹細胞、神経細胞を作製して神経分化・発達の異常を解析した。GLO1 KO iPS細胞から作製したNeurosphere(神経幹細胞の細胞塊)では、健常iPS細胞由来のNeurosphereと比べ、Neurosphereの数とサイズが低下し、GLO1 KO Neurosphereから作製した神経細胞では、神経突起の長さが低下した。これらの異常は、カルボニルストレスを消去するビタミンB6(ピリドキサミン)の添加により回復した。CRMP2は微小管の束化や重合に関わることから、GLO1 KO iPS細胞由来の神経細胞で見られた神経突起の異常は、カルボニルストレスによるCRMP2の機能低下が原因の可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、カルボニルストレスの増加が神経幹細胞の分化や増殖、神経細胞の突起伸長に及ぼす影響の一端を明らかにすることが出来た。カルボニルストレスによるCRMP2の機能低下と、神経細胞の突起伸長の低下の関連については、CRMP2のAGE修飾サイトが重要な意味を持つと考えられるため、修飾サイトの同定に注力する。
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今後の研究の推進方策 |
CRMP2のAGE修飾サイトを同定するため、各種カラムを用いてGLO1KO iPS細胞からAGE修飾CRMP2を単離し、質量分析器(LCMS)を用いて解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究は、主にiPS細胞を用いた神経分化の解析を行い、CRMP2のAGE修飾サイトの同定については、カラム精製の条件検討に留まったため、同定に関する研究費は次年度に持ち越した。持ち越した研究費は、本年度の研究と合わせ、質量分析器(LCMS)によるCRMP2のAGE修飾サイトの同定に使用する。
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