研究課題/領域番号 |
18K07617
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
戸田 裕之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 精神科学, 講師 (00610677)
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研究分担者 |
清水 邦夫 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 防衛医学研究センター 行動科学研究部門, 教授 (00531641)
古賀 農人 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 精神科学, 助教 (70744936)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気分障害 / ストレス応答制御機構 / HPA系 / FKBP5 / Early Life Stress |
研究実績の概要 |
虐待的養育環境のスケールであるChild Abuse and Trauma Scale (CATS)のオリジナル版では(CATS旧基準)、下位尺度の内的妥当性が低いことを報告している(Toda et al, Psychiatry Res, 2018)。そこで、計502人を対象に、探索的因子分析によってCATSにて測定された幼少期ストレスのサブタイプを新たに分類した(CATS新基準)。CATS新基準では、うつ病群および双極性障害群は、下位尺度すべてが健常者群よりも有意に高値であった。また、CATS新基準では、より幅広くTEMPS-Aで測定した感情気質との有意な関連が示され、特にphysical abuseとloneliness/psychological stressが、感情気質に有意な影響を与えていた(現在投稿中)。 一方、CATSの旧基準を用いて、虐待的な養育環境がFK506 binding protein 5(FKBP5)のSNPrs1360780との相互作用でうつ病、双極性障害に影響を与えるかを検討したが、有意な影響はなかった。また、同様に、虐待的養育環境がFKBP5 Intron 7のメチル化に影響を与えているかMIRA法を用いて検討したが有意な結果ではなかった。 また、クロマチン免疫沈降法(ChIPアッセイ)によって、母子分離ストレスによってグルココルチコイドレセプター(GR)のFKBP5のglucocorticoid response elements(GREs)との結合度が変化するか否かについて検討を行っている。現在、ChIPアッセイのプロトコルは確立して、母子分離ストレスと拘束ストレスを組み合わせたサンプルを用いた実験を開始している。また、分担研究者の古賀農人氏によって、各種グリアマーカー及びシナプス関連マーカーの免疫染色法の準備がなされている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画の初年度である本年度は、Early Life Stress(ELS)の評価スケールであるCATSの下位尺度の検討を実施した。CATSの下位尺度は、内的妥当性の指標であるCronbach’s α係数が旧基準では0.47~0.87であったのが、今回検討した新基準では、0.76~0.90と改善を示しており、今後の研究ではCATS新基準の尺度を用いることによって、ヒトのELSの評価、ELSによるストレス脆弱性の病態生理の検討がより適切に実施できると考える。 HPA系の調節分子であるFKBP5は、SNPrs1360780などの遺伝子多型や(Binder et al, JAMA, 2008)、DNAのIntron7などのメチル化と(Klengel et al, Nat Neurosci, 2013)ELSとの相互作用で気分障害のリスクが上昇すると報告されている。本年度はCATSの旧基準を用いて、FKBP5のこれらの遺伝多型やメチル化との関連を検討したが、有意な結果は得られなかった。先行研究との相違は、CATSの旧基準の下位尺度の妥当性の問題によって生じた可能性がある。 また、これまでの我々の研究で、母子分離ストレスを負荷された成体ラットでは、HPA axisの非抑制パターンを呈しており、拘束ストレス後にFKBP5が有意に上昇するとの結果を得ている。前述のFKBP5のSNPrs1360780やIntron7のメチル化は遺伝子発現の制御に影響を与えることが知られているが、その機序は不明確な点も多い。ChIPアッセイ法を用いた、母子分離ストレスがGRのFKBP5-GREsとの結合度が変化するか否かの検討はELSにおけるFKBP5の機能変化の解明の一助になると思われる。 以上のように、本研究課題は、臨床サンプルを用いた研究、ラットを用いた基礎的実験双方で予定を上回る進捗状況を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
【気分障害患者を対象とした研究】 2年目以降は、初年度に有効性を確認したCATSの新基準を用いてELSの影響を検討する。メチル化の測定については、より精度の高いパイロシークエンス法を用いる。また、ELSはHPA系を介して炎症性サイトカインに影響を与えてストレス脆弱性を引き起こす可能性が指摘されており(Kuhkman et al, Neurosci Biobehav Rev., 2017)、ELSの炎症性サイトカインに与える影響も検討する。2年目以降研究を進めるのは以下についてである。①健常対象者、うつ病、双極性障害のDNAを用いて、CATS新基準の下位尺度とFKBP5のSNPのrs1360780やIntron7のメチル化などとの関連を検討する。②健常対象者、うつ病、双極性障害の血清を用いて、Bio-Rad社のBio-Plexにより、CATSの下位尺度と炎症性サイトカインの関係を網羅的調べる。
【ラット母子分離ストレスの研究】 FKBP5の過剰な発現によるHPA系の異常がELSのストレス脆弱性の病態生理である可能性が指摘されているが(Sawamura et al, Neuropsychopharmacology, 2016)、詳細なメカニズムについては判明していない。また、ELSは炎症性サイトカインを介して、神経新生やグリア細胞の機能に影響を与える可能性についても報告されている。初年度までの結果を踏まえて、以下の実験を実施する。①母子分離ストレスがGRとFKBP5-GREsの結合度に影響を与えるかどうかをChIPアッセイによって検討する。②上記に、FKBP5のIntron7などのメチル化が関与しているか検討する。③母子分離ストレスの、各種グリアマーカー及びシナプス関連マーカーを用いた免疫染色を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費、謝金を他の予算で支出することができたため、予算が少し余ったが、概ね、予定通りの使用額となっている。研究の進捗状況が良好なため、次年度使用額は、学会参加費や消耗品費に当てたいと考えている。
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