研究実績の概要 |
タウオパチーの病理を再現するマウスモデルを構築するにあたり、これまでのタウ注入実験マウスモデルの欠点を克服するため、6アイソフォームタウを発現する新しいマウスの作製を計画した。ゲノム編集技術を用いて、ヒト成体脳と同様に、成体になっても3Rと4R両方のタウを生理的に正常量発現する(過剰発現系ではない)モデルマウス(Tau 3R/4R マウス)の作製に成功した。 次にAD, CBD, PiD患者剖検脳から界面活性剤不溶性画分を抽出し、これらに含まれるタウ線維をTau 3R/4Rマウス脳内に注入した。一定期間経過後に3Rタウ特異抗体、4Rタウ特異抗体用いて免疫組織化学染色をおこなったところ、AD注入マウスではマウス内在性の3Rと4R両方のタウが、CBD注入マウスでは4Rタウのみが、PiD注入マウスでは3Rタウのみが蓄積し、アイソフォーム特異的なシード依存性増幅反応が観察された。 ADタウ線維を注入したマウス脳をタウのリン酸化抗体で染色したところ、時間経過に伴って、注入部位である線条体でのタウ蓄積病理が増加し、さらに線条体と直接神経回路がつながっている大脳皮質、視床、扁桃体へのタウ蓄積病理の伝播が認められた。 PiDタウ線維注入マウス脳を詳しく調べたところ、ADやCBDタウ線維を接種した時には観察されなかった球状のタウ蓄積病理が観察された。これらはヒトPiDで観察されるピック球に非常に良く似ていた。 本研究により、①異常タウにはアイソフォーム特異的なシード依存性凝集を引き起こす能力がある、②異常タウに伝播能がある、③脳内に注入したヒトタウ線維が種の壁を越えて内在性のマウスタウの蓄積を誘導することができる、というタウが持つプリオン様の性質が確認された。この新規マウスを用いたタウ線維注入モデルはタウ伝播メカニズムの解明や、タウの伝播抑制作用を持つ薬剤の探索に用いることができると考えている。
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