うつ病の病態や治療効果発現にアストロサイトが関与する可能性が考えられている。本研究では、アストロサイト由来エクソソーム(ASTエクソソーム)と呼ばれる末梢血で回収可能とされるアストロサイトを反映する成分の中に、うつ病の病態および治療反応性に関連する分子が存在すると仮説を立てた。研究期間全体を通して以下の知見が得られた。 ①マウスの脳および血漿から回収したエクソソームを比較検討し、ASTエクソソームの標識となるアストロサイト系細胞表面タンパクについて複数の抗体の中から有望な抗体を見出した。 ②市販のエクソソームELISAキットに①で見出した抗体を組み合わせた実験系とウェスタンブロット法を用いて、マウス脳組織およびヒト血漿中においてASTエクソソームを同定した。 ③うつ病モデルおよび治療反応性モデルのマウス脳におけるASTエクソソーム量の変化を検討したが大きな変化は見られなかった。そこで、質的変化を検討するために①で見出した抗体を固定化した抗体ビーズを作成し、脳由来総エクソソーム中から特異的にASTエクソソームを精製することに成功した。今後は内包成分の解析を進めていきたい。 ④ヒトのサンプルについてはバイオバンクおよび研究協力者の収集した血漿を用いた検討を行った。ただし、ヒト血漿中におけるASTエクソソームは非常に微量であるために、定量するためにはさらなる感度向上のための検討が必要であると考えられた。そこで代替研究として、血漿中の総エクソソームの定量を行った。その結果、うつ病患者血漿中およびうつ病モデルマウスの血漿中で変化している可能性を見出した。今後は、うつ病の病態との関連や、エクソソームの内包成分について詳細な検討を行い、うつ病のバイオマーカーとしての可能性をさら検討していきたい。
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