研究課題/領域番号 |
18K07631
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平野 祥之 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (00423129)
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研究分担者 |
余語 克紀 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 助教 (30424823)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNAの放射線損傷 / ラマン分光 |
研究実績の概要 |
DNA溶液およびアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルをCo60のガンマ線で3kGy照射した。その後、励起波長532nmのラマン分光装置を用いて、非照射と照射DNAおよび塩基サンプルのラマンスペクトルを観測し、先行研究と同様な傾向が見られた。また785nmの励起波長でもラマンスペクトルを測定し、同様な結果が得られることを確認した。例えば1576 cm-1は照射により減少しているが、これはプリンのC4=C5、C4=N3の伸縮振動であり、塩基対のunstackingが原因と考えられている。また1485 cm-1の減少とバンドの広がりは、グアニンのRing mode N7に帰属し、オキソグアニンの生成による減少と考えられている。またラマンスペクトルの解析手法についても、Goldindecによるベースライン補正や、Savitzgy-Golayによるスムージングを導入し、より洗練された解析を実施できるようにした。塩基の照射実験については、照射によりいくつかのピークの変動が確認された。ピークに帰属する振動を特定するために量子化学計算ツールであるGAMESSを用いて、ラマンスペクトルを計算した。計算結果と実験結果でおおむね一致しており、計算結果からピークに帰属する振動を特定できた。これにより放射線の照射によるDNAや塩基がどのように損傷したかが推測できる。本実験で、ラマン分光は、放射線照射によるDNA損傷の推定に有用であることが確認でき、今後は、粒子線や、線エネルギー付与を変えた場合、照射時の酸素濃度の変化、直接作用と間接作用の違いよるラマンスペクトルの変化について、系統的に調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、実験施設が閉鎖あるいは制限されており、実験が予定通り実施できなかった。放射線照射施設やラマン分光装置は、共同利用施設の装置の利用を計画していたため、この影響は避けられなかった。また実験についても、当初準備したDNAサンプルでは、蛍光が多く見られ、ラマンスペクトルが観測できなかった。蛍光が発生しないDNA溶液の選定や実験手法に決定に少し時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
DNAの放射線照射後のラマン分光測定については確立した。よって、系統的に条件を変えて、DNAの損傷の様子を観測する。まず紫外線照射により、紫外線の損傷としてよく知られているピリミジン二量体が観測できるかや、制限酵素で切断することで、粘着末端や平滑末端の様子が観測できるかを調べる。これらの結果はDNAの放射線損傷ラマンスペクトルの理解の助けになる。その後、粒子線とX線による損傷スペクトルの変化、粒子線のLETを変化させた場合や酸素濃度の違いによるスペクトルの変化を観測する。一方で量子化学計算によるラマンスピークに帰属する振動を特定することで、より損傷構造の理解が進むことが期待できる。放射線の種類やエネルギー等の条件変化によるDNAの損傷の違いは、その後の修復や細胞の生死に影響があると予想できるため、放射線治療効果予測モデルの構築に有用な情報となると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、実験施設の利用が制限され、実験が予定通り実施できなかった。そのため実験に必要な試薬やサンプルの購入、施設使用料が発生しなかった。 次年度は、実験施設の使用が比較的緩和されたため、予定していた実験のために使用する予定である。また照射条件に酸素濃度を変える予定で、そのためのチェンバー制作と、粒子線照射のための施設使用料および交通費に使用する。他にも論文の校正や学会参加費に使用する予定である。
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