研究課題/領域番号 |
18K07650
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研究機関 | 京都医療科学大学 |
研究代表者 |
澤田 晃 京都医療科学大学, 医療科学部, 教授 (80543446)
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研究分担者 |
森山 真光 近畿大学, 理工学部, 准教授 (00283953)
石原 佳知 日本赤十字社和歌山医療センター(臨床研究センター), 放射線治療科部, 医学物理係長 (60709351)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動的照射軌道 |
研究実績の概要 |
昨年度に開発した正常組織への照射を抑制する回転照射軌道の自動計算アルゴリズムである改良型A*アルゴリズムを用いて、脳腫瘍に対して作成した放射線治療計画を評価に着手した。照射軌道の計算の流れは以下の通りである。まず、各臓器を表す点群を3次元空間に配置し、腫瘍の中心位置を通る放射線モデルを作成した。その際、放射線モデルの照射位置は半径Rの全球の表面上の点の経度 θ,緯度 φで表し、照射位置をπ≧θ≧-π及びπ/3≧φ≧-π/3の範囲で移動させ、各地点から腫瘍までの経路における放射線モデルと臓器ごとの交点の数をカウントした。放射線による損傷は臓器により異なるため各臓器に重みを与えて点数と乗算し足し合わせた値を危険度とし、横軸をθ、縦軸をφとする2次元危険度マップを作成した。各θ,φに対する危険度は、各臓器の危険度と、対応する重みとの荷重和により求めた。次に、作成した危険度マップを用いて、指定した2地点間の実コストと推定コストを計算しながら探索した。頭頚部ファントムを用いて脳腫瘍に対する放射線治療計画を作成し、脳幹を重要組織として経路生成時の重みを設定した。生成した照射経路は、低い危険度の領域を通過することが確認できた。また、腫瘍と脳幹のDVHから、腫瘍へ所定の線量が付与され、脳幹への線量が抑制されていることを確認した。本年度は、正常組織への線量を出来る限り最小限に抑えつつ、処方線量を標的に照射可能であり、ダイナミックウェーブ照射における照射経路の自動生成に利用できることを示した。今後、予定していた臨床の治療計画との比較を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、照射軌道における機器と患者との相互干渉を検知し、照射軌道の修正へフィードバックするアルゴリズムの開発および最適化軌道に関する臨床データを用いた評価を行う予定であったが、施設内への立ち入りが制限されたため、当初の研究計画を遂行できなかった。そこで、前年度までの研究により判明していた、ダイナミックウェーブ照射の軌道の優劣がより大きく現れる、頭頚部に対する照射軌道の最適化を図ることにした。以前に撮影していた頭頚部ファントムに関する画像データをもとに治療計画を作成し、照射経路探索を行った結果、有効性を示唆するデータが得られ、学会発表を行った。しかし、臨床条件との乖離が懸念され、今後臨床データを用いた評価を行う。一方、腫瘍の動きを含む照射軌道の最適化に向けて、超音波画像照合装置を用いた前立腺照射中の経時的移動変化を検討した。前立腺癌では、照射中に腸管ガスや膀胱拡張等により前立腺の位置が変動するため、照射中の前立腺の変動を系統的・偶発的変位量に分け解析し、照射時間が前立腺の変動に与える影響を評価した。14例(プランの総線量が74 Gy,分割回数が37回)に対して、照射時間の短縮により前立腺の変動の影響を軽減できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
シミュレータより生成した肺と頭頸部ファントムの腫瘍に対する照射経路を用いた2種類の放射線治療計画を放射線治療計画システムにより作成し、算出した線量分布とDVHを用いて評価した。その結果,双方の計画ともに正常組織に設定した組織への線量を出来る限り最小限に抑えつつ、所定の線量を標的に照射できることが確認でき、開発したシミュレータにて探索・生成した照射経路は放射線治療計画に有用であることを示した。よって、本シミュレータにより正常組織上を通過する線量を可能な限り抑制した照射経路の生成が可能と考えられる。課題としては、臨床の治療計画との比較実験が挙げられる。臨床の治療計画では他にも制約条件をいれており、腫瘍により線量が集中するようにしているため、このシミュレータの有用性を示すべく、制約条件を整え、臨床の治療計画との比較実験を行う。あわせて、仮想空間内に、照射装置や治療台の速度・加速度などの駆動条件を含めた機器モデルを生成する。また、3次元デジタイザにより患者の体表データを計測して、個別の患者モデルを生成する。照射軌道に合わせて、機器や患者モデルの位置姿勢を実時間に変化させ、物理エンジンライブラリを利用して動的な軌道において干渉の検知ソフトウェアを開発する。これにより、空間的・時間的に連続的な照射へ対応可能となる。また、実治療室の機器の形状や配置を調整し、干渉検知の精度を定量評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新コロナ感染拡大に伴い臨床施設での実験や開発が滞ったため。今年度は実験を再開を試みるとともに、シミュレーションによる解決策を検討する。
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