研究課題
RI内用療法は放射性核種を含んだ薬剤を用いて標的に放射線を与える治療手法であり、主として多発性転移を伴った腫瘍を標的とする。このRI内用療法において、新しい放射性薬剤が開発・導入されつつあり、用いられる放射性核種として、従来からあったベータ線放出核種に加えてアルファ線放出核種を含めた新しい核種が利用可能となった。そのような新しい放射性薬剤・核種が導入されるに伴って、投与する放射能量や投与のタイミングを患者の病態や腫瘍及び臓器の吸収線量に基づいて最適化することが重要であることが明らかとなってきている現状である。このため、RI内用療法において画像データや微細な生体構造の組織学的なデータに基づき、線量計測や線量シミュレーション手法を用いることにより、腫瘍や臓器のマクロな線量評価の手法と微小な組織の線量評価の手法に取り組んだ。アルファ放出核種のRI内用療法への応用は世界的に研究されているところであるが、アルファ核種として既に臨床導入されているRa-223を本年度の実験系に用いた。アルファ線を捉えてイメージングを行うことは通常困難であるが、Ra-223はガンマカメラ等の検出器で捉えうる特性X線やガンマ線も放出するので、これらを用いてイメージングを行った。Ra-223の実験室での計測及びRa-223を投与された患者から得られたイメージデータに基づいて集積量を定量する手法を開発した。またベータ線放出核種Lu-177については実際に投与したシミュレーションを行って集積量の定量の手法を検討した。これらのデータに基づいて体内動態からマクロに臓器や腫瘍の吸収線量を評価し、線量評価手法の実施可能性を検証することができた。微小な組織の線量評価については、医学物理の専門家と共同して手法を構築しており、次年度には実際の線量評価を実施する。
2: おおむね順調に進展している
国際的にも国内でもこのようなRI内用療法における線量評価に基づいた個別化治療に向けた検討は緒に就いたばかりである。そこで本研究ではRI内用療法において画像データや微細な生体構造の組織学的なデータに基づき、線量計測や線量シミュレーション手法を用いることにより、腫瘍や臓器のマクロな線量評価の手法と微小な組織の線量評価の手法を開発することに重点を置いて検討し、その結果を個々の症例に対して最適化されたRI内用療法の実施に繋げることを目的したものである。2018年度は正常臓器・腫瘍の吸収線量評価について、放射性薬剤による生体内臓器の吸収線量を評価するにあたって必要となる集積量の定量手法を確立した。これは、アルファ線放出核種Ra-223、ベータ線放出核種Lu-177のイメージデータから集積量を定量する手法である。また組織吸収線量だけでなく、Biological Effective Dose (BED)の線量概念を用いて正常組織への影響をよりよく評価する検討も実施した。
当初の研究計画に沿って本研究を継続して推進する。1)正常臓器・腫瘍の吸収線量評価:本研究で、引き続き、既に確立されているいくつかの手法を応用して放射性薬剤による生体内臓器の吸収線量を評価する。核種として基礎データの得られているアルファ線放出核種Ra-223、ベータ線放出核種Lu-177をモデルとして用いる。解析法として、MIRD法、MIRDOSEやOLINDA/EXMを用いる。個々の患者における放射性薬剤の体内動態にこれらの手法を適用することにより、吸収線量を推計することができる。また腫瘍に与える吸収線量はこのようなファントムの手法とは別に計算する必要がある。個々の生体における吸収線量計算としては、本研究者らは、従来から粒子線の吸収線量評価法を開発しており、本研究において画像データや他の体内動態データに基づいて、臓器や腫瘍の吸収線量をSIMINDプログラムあるいは独自に組んだモンテカルロシミュレーションにより評価する。2)組織内でのマイクロドシメトリ:アルファ線放出核種を用いるRI内用療法においては、アルファ線の組織中飛程が数十マイクロメータであることから、臓器や腫瘍のマクロで平均的な吸収線量だけではなく、組織中の微小環境での吸収線量を評価するマイクロドシメトリが重要である。動物モデルを用いて組織のオートラジオグラフィにより、組織内分布のデータを取得し、線量計算モデルを作成する。3) RI内用療法の個別化: RI内用療法を受けられた既存の症例の画像データ等を解析して、体内動態からマクロな臓器や腫瘍の吸収線量を算出、さらに微小な組織レベルでのマイクロドシメトリも考慮して詳細な吸収線量の分布を求め、これら一連の線量評価手法の妥当性を検証する。さらにこの手法が個別的な治療を計画するにあたって有用であることを既存の症例データにおいてシミュレートすることにより検証する。
以下の理由で次年度使用額が生じた。1) 海外旅費について、他の研究費からの支出によって賄えた、 2) 人件費・謝金が生じなかった、 3) 消耗品の購入を押さえることができた。2019年度には、実験に用いる消耗品として支出する予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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