研究実績の概要 |
本研究は、うつ症状との関連が証明された17種類の遺伝子多型を対象に、最新のMRI技術(拡散テンソル画像:DTI)を用いて、遺伝子多型がうつ病患者の脳神経線維および脳内ネットワークに与える影響について解明することを目的にしている。DTIから算出される代表的な値として、拡散異方性の指標であるFractional Anisotropy (FA)があり神経線維の統合性の異常検出に鋭敏とされている。 平成30年度から令和元年度にかけて、承諾を得たうつ患者(50例)と正常者50例から得られた17種類のうつ病関連候補遺伝子多型のデータ、MR画像データ(形態画像、拡散テンソル画像、ミエリンマップ)について解析を行った。具体的な解析内容は、17種類の遺伝子多型が脳神経線維/脳内ネットワークに与える影響について、脳画像統計解析ソフト(voxel-based morphometry法やtract-based spatial statistics : TBSS法を用いて解析した。 結果は、17遺伝子のうちのひとつであるarginine-glutamic acid dipeptide (RE) repeats (RERE) 遺伝子が、うつ病患者における様々な脳神経線維(anterior thalamic radiation, cingulum, corticospinal tract, inferior fronto-occipital fasciculus, inferior longitudinal fasciculus, superior longitudinal fasciculus, uncinate fasciculus, forceps major, and forceps minor)の変容(FA値)の低下に関連していた。その他の遺伝子多型についてはうつ病患者の脳神経線維への影響は認められなかった。 今回の結果はうつ病患者のリスク遺伝子とされる17遺伝子の一つであるRERE遺伝子が脳内ネットワークの器質的な変容に関与している可能性を示唆している。
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