研究課題
ZnOは,ワイドバンドギャップ(3.37eV)を持つ酸化物半導体であり,透明導電体としての応用が検討されている。一方で,発光材料としてもよく知られており,その生体親和性から,シンチレーターとしての応用も期待されている。ZnOからは,主にバンドギャップによる紫外発光(波長380nm付近)と,酸素欠陥等による緑色発光(波長550nm付近)を得られることがわかっているが,今回は,共スパッタ法で成膜したZn過剰ZnO(以下ZnO:Zn)薄膜から,顕著かつ特異な赤色発光帯を観測した。高周波(RF)スパッタリングを用いてZnO:Zn薄膜の成膜を行った。基板には溶融石英板を用い,スパッタリングガスとしてArを26sccm,H2を4sccmの流量で真空チャンバ内に導入した。RF電力は75Wに設定し,膜厚が1μmになるようにスパッタリング時間を設定した。成膜の際,ZnOターゲット(直径100mm)上に複数のZnワイヤー(1mm径)を対称に置き,共スパッタによりZnの添加を行った。また,発光特性の比較を行うため,成膜時に使用するZnワイヤーの量(一本あたりの長さ及び本数)を変えた試料を複数準備した。次に,成膜したZnO:Zn薄膜のアニール処理(450℃,6時間)を行った。その後,試料のフォトルミネッセンス(PL)特性の評価を行った。励起にはHe-Cdレーザー(波長325nm)を使用した。試料のPLスペクトルの測定およびガウシアンフィッティングを行った結果,Znを過剰に添加することによって,波長570nm付近の緑色~黄色発光帯に加えて波長650nm付近および750nm付近の2つの赤色発光帯が観測され,共スパッタ法で成膜したZnO:Zn薄膜においては,3つの発光帯が存在することを確認できた。これらの発光帯は,Znを過剰にしたためにZnO:Zn薄膜中に形成された欠陥準位に起因するものと思われる。
2: おおむね順調に進展している
今回は,ZnO薄膜に対して共スパッタ法でZnを追加することにより,ZnO:Zn薄膜を成膜して3つの発光帯が存在することを確認できた。生体親和性が比較的高くシンチレーターとしての応用が期待できる,ZnO薄膜の新たな発光特性の開拓に成功したと言えることから,本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
共スパッタ法で成膜したZnO:Zn薄膜から観測された3つの発光帯は,Znを過剰にしたためにZnO:Zn薄膜中に形成された欠陥準位に起因するものと思われる。それを検証するために,ZnO:Zn薄膜の透過スペクトルの測定データをTaucプロットしたところ,ZnO:Zn薄膜のバンドギャップエネルギーは3.45~3.55eVと推定された。今後は,3つの発光帯の起源となる欠陥準位の特定を試み,そのバンドギャップエネルギーとの関連性も調べることによって,ZnO:Zn薄膜のエネルギー準位モデルを確立すべく研究を継続していく予定である。
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B
巻: 450 ページ: 157-162
10.1016/j.nimb.2018.09.002