本研究では,放射線検出用蛍光体の表面に微細周期構造を形成し,蛍光体内部からの光取り出し効率を高めることで高効率化を目指しているが,本年度も昨年度に引き続き,別のアプローチとして,貴金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴現象を利用した高効率化を検討した. AuやAgのナノ構造やナノ粒子は,その表面プラズモン共鳴による特異な光吸収を示し,太陽電池やLEDの高効率化,あるいは光触媒の高性能化などにも強く寄与し得るものと期待されている.研究代表者らは,これまでに,独自の共スパッタ法を用いてTa2O5薄膜に希土類およびAgを共添加し,Ag添加の効果により,Ta2O5薄膜中の希土類イオンからの発光が増強されることを確認してきた.更に,昨年度は,同様の共スパッタ法を用いてAu添加Ta2O5薄膜を初めて成膜し,その後の熱処理によって結晶性の高いTa2O5 薄膜中へのAuナノ粒子の形成を試みた. 今年度は,次の段階として,同様の手法により,生体親和性が高いZnO系薄膜にAgまたはAuを添加した薄膜を成膜し,成膜後の熱処理によってAgまたはAuナノ粒子の形成を試みた。作製した試料の透過スペクトルから,AgまたはAu添加による光吸収を評価したところ,それぞれ波長520nmと600nmでの波長帯で光吸収ピークが見られ,薄膜中にAgまたはAuナノ粒子が存在し,それらによる表面プラズモン共鳴が起こったと推測された。発光スペクトルの測定結果からは,Agを添加した薄膜では波長530nmおよび610~650nm付近での発光帯が確認され,Auを添加した薄膜では625℃以上の熱処理によって波長600nmおよび700nm付近でのごく微弱な発光が確認できた。これらは母材のZnOに起因する発光であるが,AgやAuを添加することで発光波長帯を変化させ,その強度をも変化させられる可能性を示唆する結果が得られた。
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