本研究では、低酸素腫瘍の診断や治療に用いられる64Cu-ATSMの集積とがんの難治性を結ぶメカニズムに、NADH/NAD+比を介し、CtBP2の発現変化が関与するエピジェネティックな変化が関わっているかを明らかにしようと試みた。 前年度までの検討で、乳がん細胞MCF7では、酸素濃度5% のマイルドな低酸素下の長期培養が、CtBP2やがん幹細胞マーカーCD133の発現上昇を招くとともに、64Cu-ATSMの細胞集積増加に繋がることが示された。また、低酸素イメージング剤とされながら、腫瘍内分布や細胞取り込みの至適酸素濃度が64Cu-ATSMとは異なる18F-FAZAでは、酸素濃度5%下の長期培養による細胞集積増加は認められたが、64Cu-ATSMの細胞集積を増加させる培地の組成変化による細胞質NADH/NAD+比の操作では細胞集積は変化せず、18F-FAZAの集積変化にはエピゲネティックな変化は関与しないと考えられた。 こうした結果を受け、2020年度からはMCF-7細胞を移植した腫瘍モデルにおいて64Cu-ATSMの高集積とCtBP2の発現に関係が見られるかの検討に着手した。腫瘍内の64Cu分布とCtBP2発現をWestern blottingで比較したところ64Cu高集積部位のCtBP2発現が64Cu の低集積部位に比べて高い傾向がみられ、in vivoにおいても両者に関係がある可能性が示された。 2021年度は新たに免疫染色による腫瘍内のCtBP2の発現分布の検出を試みた。64Cu-ATSM投与担がんマウスから腫瘍を摘出して凍結切片を作製し、オートラジオグラフィによる腫瘍内の64Cu分布と免疫組織染色によるCtBP2の発現を比較した。64Cuの高集積部位ではCtBP2の発現が高い傾向が見られ、western blottingによる結果をサポートするものであった。
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