本研究の目的は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を行うために十分な量のホウ素を腫瘍組織選択的に高効率で送達するための薬剤開発、およびその送達量を非侵襲的に推定するための放射性分子プローブ開発である。 現在臨床使用されているホウ素薬剤としてボロノフェニルアラニン(BPA)があるが、その腫瘍移行量は十分ではない。そこで、BPAを母体とするホウ素含有ジペプチド薬剤を開発し、ジ/トリペプチドを認識するペプチドトランスポーター(PEPT)に基質として認識させ、腫瘍細胞に発現するPEPTを介して細胞内に能動輸送することで、腫瘍への高効率・選択的なホウ素送達が達成できると考えた。 最終年度は、開発したホウ素含有ジペプチド薬剤(BPA-フェニルアラニン、BPA-Phe)の腫瘍細胞への取り込みについて詳細な評価を行った。PEPT高発現細胞株と低発現細胞株それぞれにBPA-Pheを処置したところ、低発現細胞株よりも高発現細胞株に対して有意に高い取り込みを認めた。またその取り込みは、PEPTの基質として知られるグリシルサルコシン共存下では顕著に抑制され、BPA-PheがPEPTを介して腫瘍細胞内に集積する可能性が示された。最後に、腫瘍細胞への取り込みをBPAとBPA-Pheの間で比較したところ、BPA-Pheの方が有意に高く取り込まれた。これらの結果から、PEPTを介して、BPAよりも高く腫瘍細胞に取り込まれるBNCT用薬剤の開発に成功した。
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