研究課題/領域番号 |
18K07695
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
松本 謙一郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, チームリーダー(定常) (10297046)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 重粒子線 / レドックス反応 / 過酸化水素 / グルタチオンペルオキシダーゼ / セレン欠乏 / ヒドロキシルラジカル / フェントン反応 / 紫外線分解 |
研究実績の概要 |
重粒子線が水中に生成する活性酸素種の定量を行ってきた。多量の水を含む試料への重粒子線照射は、極めて密度の高いヒドロキシルラジカルを生成する。極めて高密度にヒドロキシルラジカルが生じることによりヒドロキシルラジカル同士の反応が可能となりヒドロキシルラジカル同士の反応で過酸化水素を生じる。生じた過酸化水素は更に近くのヒドロキシルラジカルと反応してヒドロペルオキシルラジカルを生じ、更にヒドロペルオキシルラジカル同士の反応で再び過酸化水素を生じる。このように重粒子線では、酸素消費を伴わない比較的高濃度の過酸化水素の生成が予想される。そのため生体内の低酸素濃度の環境では、重粒子線は、X線などの低LET放射線よりも過酸化水素の生成を起こしやすいと考えられ、その影響が大きいものと予想される。そこで、重粒子線照射で発生した過酸化水素を、UVの照射や鉄の投与によってその場でヒドロキシルラジカルに変換することが出来れば、重粒子線の治療効果を増幅させることが可能と考えた。本研究では、過酸化水素の生物影響に対して増感的に作用すると考えられる物理化学的あるいは化学的因子について、実際に重粒子線を照射したマウス個体に対してそれらの因子が期待する通りの影響を与えるか否かについて評価する。先ず、生体内で過酸化水素の分解を行う酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼの活性中心として働くセレンを欠乏させたセレン欠乏マウスの作成を試みたところ、比較的早い段階で、優良なモデルマウスが得られた。そのため、31年度から予定した動物実験を前倒しで開始した。しかしそのためにマシンタイムを使用したため、化学実験に若干の遅れが生じた。セレン欠乏マウスの作成について学会で成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体内で過酸化水素の分解を行う酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼの活性中心として働くセレンを欠乏させたセレン欠乏マウスの作成を試みたところ、早い段階でその作成に成功したため、当初はH31年度に予定していた動物実験を前倒しで行った。しかし重粒子線照射装置(HIMAC)のマシンタイムが限られているため、動物実験を優先した分、化学実験に若干の遅れが生じた。本年度は化学実験を優先する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
セレン欠乏マウスの作成に成功した。これについて論文化する。またセレン欠乏マウス脳における放射線照射後のレドックス経時変化について概ね実験データがそろったので、これについてまとめ論文化する。動物実験が予想以上に進んだのに対し、化学実験がやや遅れがちであるので、H31年度は以下の化学実験を優先して行う。無酸素条件下で重粒子線による水中での過酸化水素の生成量を測定し、重粒子線の初期反応メカニズムについて検証する。放射線照射した試料中でのフェントン反応によるヒドロキシルラジカルの生成を確認する。放射線照射した試料中でのUV照射によるヒドロキシルラジカル生成を確認する。また、32年度から予定している動物での増感実験に必要な予備試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の一通りの研究活動が終了した段階で若干の残額生じていたが、不必要な駆け込みでの物品購入を避け、次年度の消耗品費として使用することとした。本年度の消耗品費として使用する予定である。
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