多量の水を含む試料への重粒子線照射は、極めて密度の高いヒドロキシルラジカルを生成し、それに伴い局在する高濃度の過酸化水素を生成する。本研究では、重粒子線を照射したマウス個体に対して、過酸化水素の生物影響を増感すると考えられる物理化学的あるいは生物化学的因子について、その影響を評価した。 2018年度に、生体内で過酸化水素の分解を行う酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼの活性中心として働くセレンを欠乏させたセレン欠乏マウスの作成を試み、比較的早い段階で優良なモデルマウスが得られたため、2019年度から予定した動物実験を前倒しで開始した。2018年度に実施したセレン欠乏マウスの作成およびそのX線感受性について論文にまとめてJ. Clin. Biochem. Nutr誌で報告した。 2019年度は、放射線により水中に生じた過酸化水素のヒドロキシルラジカルへの返還をEPRスピントラッピング法により定量的に測定し確かめるとともに、生体内での反応を意識して低酸素条件での照射実験を展開した。In vitroでの過酸化水素の定量実験について論文にまとめ、Free Radic. Res.誌において報告した。 2020年度は、セレン欠乏マウスを用いて、放射線照射後の組織のレドックス状態の経時変化を評価するため、レドックスイメージング実験を実施した。また、マウス後肢への放射線照射後の後肢の短縮率に対しての、放射線照射直後の紫外線照射の影響を調べた。 2021年度は引き続き、セレン欠乏マウスに放射線を照射した後の組織のレドックス状態の経時変化をレドックスイメージングにより評価した。また、マウス後肢への放射線照射後の後肢の短縮率に対しての、放射線照射直後の紫外線照射の影響について学会で報告した。
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