研究課題
がんの放放射線治療による正常組織障害発症には個人差があり、世界各国で遺伝的な違いについて研究が進められている。正常組織障害リスクに関与する遺伝子バリアントは多数報告されているが、未だ治療前に患者個人の正常組織障害リスクを予測するには至っていない。これまでの研究から、放射線による組織障害リスクに関わる遺伝子バリアントは複数であり、さらにこれらのバリアントをもつたんぱく質の相互作用の結果として個々の組織障害が表れていると考えられる。ところで、これまでに私たちが収集した約2900例の放射線組織障害発症例の中には特に重篤な組織障害を示した数十例が含まれるが、これらの症例ではDNA損傷修復に関わる単一遺伝子疾患の原因遺伝子の変異が強い効果を示している可能性も考えられる。そこで本研究ではこれまでに収集したがん放射線治療症例のうち特に重篤な障害を示した症例を中心にゲノム全体を対象としてエクソームシーケンスを行ない、対象症例に特異的な稀なバリアントを探索することとした。毛細血管拡張性小脳運動失調症(Ataxia Telangiectasia, AT)や遺伝性乳がん・卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome, HBOC)などの遺伝病原因遺伝子がDNA損傷修復系に関わっていることからこれら遺伝子を中心に解析した。25種類の遺伝子から遺伝子上流・下流、またたんぱく質coding領域のmissense変異として延べ197個のバリアントを検出した。しかしながらこれらの推定される機能への影響は強くはなく、また特に重篤な組織障害を発症した症例に特異的では無かった。したがって、私たちが収集したがんの放射線治療症例においては、単一遺伝病の原因となっているDNA損傷修復遺伝子が単独で直接の放射線組織障害の原因とはなっていないと思われた。
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https://www.nirs.qst.go.jp/research/review/radgenomics/index.php