研究課題
術中照射は手術的に重要臓器を周囲から距離を空け1回大線量を照射する技術である。歴史的には主に電子線が用いられてきたが、炭素イオン線は低酸素状態や低酸素による放射線抵抗性の影響を受けにくく、単回照射が基本の術中照射により適している。しかし、術中照射での重粒子線の利用は、①手術室と直結された照射室がなかったことと、②開創状態で治療計画を行う必要があるがボーラスやコリメータの作成に数日間以上を要したこと、③照射方向が固定され手術体位あわせた照射ができないことなどから、試みられてこなかった。2020年度完成予定の山形大学重粒子線治療施設は山形大学医学部附属病院と直結されており、病院の手術室から直接患者をストレッチャーで照射室に搬送可能な設計となっていること、スキャンニングビームを用いるためボーラスやコリメータの作成が不要であること、回転ガントリーを備えており手術体位を維持したまま術野へ自由な角度で照射が可能である、ことなどから、理論的には世界ではじめて術中重粒子線療法が実施可能な施設である。本研究では術中重粒子線療法の臨床応用に向けて、本学の重粒子線治療装置を用いた術中重粒子線療法が実際に可能かどうかを、①手術室から照射室への患者搬送の容易性、搬送時間、②CT撮影時間、治療計画時間が全麻下で許容範囲内の時間で終わるかどうかを検討したが、搬送は容易かつ安全で、すべてを併せた所要時間は最大でも90分程度と十分許容範囲内であった。この結果から重粒子線治療装置を用いた術中重粒子線療法は実現可能であることがほぼ証明された。
2: おおむね順調に進展している
術中重粒子線療法が実施可能であることを証明するため、①物理的な搬送の可否について検討した。搬送用ストレッチャーの試作と手術室から重粒子線治療施設への搬送は容易かつ安全で、所要時間は10-20分であった。次に、CT撮影と画像の治療計画装置への転送、治療計画実施時間を検討したが、患者入室から画像転送までの平均時間は、17.9±5.3分(頭部)、24.9±11.9分(頭頸部)、18.8±6.5分(胸部)、18.3±4.7分(腹部)、20.8±7.6分(骨盤部)であった。さらにCT画像インポートから照射方向決定までの平均時間は、3.8±1.0分(頭部)、4.1±0.8分(頭頸部)、3.7±0.6分(肺)、2.2±0.1分(前立腺)、最適化と線量計算の平均時間は、10.0±3.2分(頭部)、14.4±4.6分(頭頸部)、10.0±2.2分(肺)、8.0±0.4分(前立腺)であった。したがって、重粒子線治療の治療計画平均時間は、13.7±3.1分(頭部)、18.6±4.0分(頭頸部)、13.7±2.5分(肺)、10.2±0.3分(前立腺)であった。以上より、比較的短時間でCT撮影から治療計画まで実施可能であり、時間的側面からも術中重粒子線療法が可能であることが示された。
術中重粒子線療法を行う物理的、時間的要件は満たされることが証明されたため、本年度は実施体制の整備、すなわち、実際に治療を実施する人員を組織する。具体的には関係する診療科、診療部、看護部の参画の元、プロジェクトチームを結成する。さらにチーム内で対象疾患の絞り込み、手順書の作成、プロトコールや患者への説明文書の作成を行う。さらに、治療開始前のリハーサルとして、模擬患者に麻酔・人工呼吸を行っていることを想定し、手術室からCT室、CT室から回転ガントリー照射室への搬送、CT撮影、画像転送、治療計画、模擬照射のリハーサルを繰り返し行う。さらに年度中に継続研究として、術中重粒子線療法の安全性、有効性を確認するための臨床研究の申請を行う。本研究を起点として術中重粒子線療法が確立されれば、①重粒子線の最大の利点である単回照射の恩恵を受ける患者数が大幅に増え、②次世代型重粒子線治療施設の世界的な普及に貢献、③既存あるいは計画中の多くの重粒子線治療施設で手術室の併設が検討されるようになる、など大きな波及効果が期待される。
術中重粒子線療法用ストレッチャーの試作機が予想より安価に作成できためと、年度末に参加予定であった複数の学会がコロナウイルスのパンデミックにより中止となったため、次年度使用額が生じた。仕様計画としては、試作したストレッチャーの問題点の修正、試用を繰り返し、実際に試用する機器の最終設計を行うとともに、複数診療科、多職種からなる、実施委員会のメンバーが関連する学会に参加し、粒子線治療、術中照射についての理解を深める予定である。
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