研究課題
本研究では、画質および線量評価に基づいて、被検者体型に適したCT撮影条件を検討することを目的としている。画質評価については、前年度に作成した設計図に基づいて、今年度はサイズの異なる2種類の低コントラスト評価用ファントムを作成した。また、線量評価については、体型の異なる80例の成人胸部-骨盤CT検査のCT画像を用いて、各被検者の数学ファントムを作成し、CT装置のジオメトリや撮影パラメータを設定して、シミュレーション計算を行うことで、各被検者の組織・臓器の吸収線量(臓器線量)を推定した。また、近年導入された線量管理システム等で自動的に収集されているCTDIvolやSize specific dose estimates(SSDE)などのCT線量指標と臓器線量との相関を評価した。その結果、特にSSDEと臓器線量との間には強い一次の相関が認められたため、各被検者のCT線量指標を用いて臓器線量を推定できると考えられた。そして、これらの線量評価結果をまとめ、海外の学術雑誌に論文を投稿した。また、線量シミュレーションに基づいて臓器線量を評価する際に、各組織・臓器の関心領域を作成する必要があるが、特に、組織間のコントラストが低い組織・臓器の関心領域を自動的に作成することは難しく、その多くについては、手動で関心領域を作成していた。そこで、本研究では、深層学習に基づいて各組織・臓器の関心領域を自動的に作成し、この関心領域をシミュレーション計算で得られた線量分布画像に設定して臓器線量を評価した。また、自動で作成した関心領域と手動で作成した関心領域との一致度について、Dice係数を用いて評価した結果、両者の間には、高い一致率が認められた。これらの評価結果をまとめ、海外の関連学会で発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
CT検査を受診する被検者体型に即した撮影条件を検討するには、様々な被写体サイズを模擬した画質評価ファントムが必要であるが、そのようなファントムは市販されていない。そこで、本研究では、先行研究で作成した標準サイズの画質評価ファントムに加え、サイズの異なる2種類(水等価直径:18 cm, 35 cm)の低コントラスト評価用ファントムを以下のように作成した。最初に、過去に診療目的でCT検査を受診した被検者のCT画像データを収集し、被検者体型の縦横径、周囲径、CT値などを解析し、ファントムのサイズ、ファントムの材質(ベース濃度)を決定した。ファントム内に挿入するモジュールについては、素材の配合を変えたサンプル樹脂を複数作成してCT装置で撮影し、得られたCT画像を用いて、各樹脂のCT値を測定し、ファントムのベース濃度よりもCT値が10-20 HU 程度高い樹脂素材を選定した。また、モジュールの形状は直径3-10 mmの球形とし、この模擬腫瘤をファントム内の同一面内に等間隔に配置した。作成したファントムをCT装置で撮影し、得られた画像を用いて、ファントム内に設置したモジュールのCT値およびそのサイズを測定したところ、設計した値とおよそ合っていることを確認できた。また、ファントム内に挿入したモジュールについて、同一材質のモジュールであっても、ファントムサイズが大きくなるにつれて、線質硬化の影響により、モジュールのコントラストが数HU程度低下していることが分かり、実際の臨床画像において生じると考えられる現象を作成したファントム画像でも再現できていると考えられる。従って、今年度において、サイズの異なる低コントラスト評価用ファントムを作成できたことで、当初の研究計画通り、本研究は、おおむね順調に進展していると思われる。
今後の方針として、作成した低コントラスト評価用ファントムを用いて、画質評価および線量評価を行う。画質評価については、メーカの異なる複数のCT装置を用いて、各種撮影パラメータ(管電圧、管電流、ピッチファクタ、ビーム幅等)を変えてファントムを撮影し、また、画像再構成法、再構成関数等を変えてCT画像を取得する。特に、近年、開発された深層学習を利用した画像再構成により得られたCT画像の画質について評価し、従来のフィルタ補正逆投影法で再構成された画像、および、逐次近似法で再構成された画像との比較、検討を行う予定である。画質評価方法について、得られた各CT画像に対し、画像解析ソフトウェア(Image J)や計算プログラミング言語(MATLAB)を用いて、申請者らが考案した低コントラスト解析法に基づいて、コントラスト、画像ノイズ等を評価し、被写体のサイズによって、これらの画質評価がどの程度異なるかを評価する。また、撮影した画像の視覚的な印象に基づいて低コントラスト検出能の評価を行う予定である。線量評価については、低コントラスト評価用ファントムの画像から数学モデルを作成し、CT装置のジオメトリや撮影パラメータを設定して、シミュレーション計算を行う。また、シミュレーション計算により得られた線量分布画像を用いて、ファントムサイズにより線量がどの程度異なるかを検討する。さらに、ファントム内の各モジュール位置での線量を推定し、線量および画質評価結果から、線量と画質との関係性について検討する。そして、研究成果については、国内外で開催される学会や国際会議等で発表し、また、学術雑誌への投稿論文として国内外に発信する予定である。
(理由)低コントラスト評価ファントムについて、僅かではあるが、当初の予定額より効率的かつ安く作成できたため、次年度使用額が生じた。(使用計画)次年度分の助成金と合わせて、旅費、論文等の英文校正費用等に充てる予定である。
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Radiation Protection Dosimetry
巻: 185 ページ: 432-439
10.1093/rpd/ncz031
巻: - ページ: -
10.1093/rpd/ncz261