研究課題/領域番号 |
18K07731
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研究機関 | 昭和薬科大学 |
研究代表者 |
宿里 充穗 昭和薬科大学, 薬学部, 講師 (20525571)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多発性硬化症 / 酢酸代謝 / グリア細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、脳エネルギー代謝のPETイメージングにより多発性硬化症(MS)診断が可能であるかについて、MSの病態研究に使用されることの多い実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルラットを用いた評価を進めている。これまでに、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)投与による単相性のEAEモデルラットを対象とし、C-14 Acetateを用いたex vivoオートラジオグラフィ実験を行った結果、神経症状が出現するよりも早い時期からC-14 Acetateの脳内および脊髄への集積が増加することが明らかとなった。MS治療薬であるフィンゴリモド投与によるC-14 Acetate集積の変化は顕著にみられなかった一方で、H-3 PK1195の結合やミクログリアの活性化はフィンゴリモドによって有意に抑制されていた。以上の結果から、フィンゴリモドによるC-14 Acetate集積変化が僅かであったのは、アストロサイトの変化が僅かであったことと一致していると考えられ、モノカルボン酸トランスポーターを介して取り込まれるC-14 Acetateは、EAEモデル動物においてアストロサイトの変化を反映するマーカーになり得ると考えられた。MS診断の指標としてC-14 Acetateが有用であるかの評価は、MS病態におけるアストロサイトの機能と併せてさらなる検討が必要である。今後は、より臨床症状に即したモデル動物として慢性再発型のEAEモデルマウスにおける評価によって本研究を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脳内の酢酸代謝がEAEにおけるアストロサイトのマーカーになり得る可能性を示すこれまでの研究成果を踏まえ、令和2年度はMS病態に関連したC-14 Acetate集積の変化とアストロサイトの機能をより詳細に明らかにする目的で、慢性再発型のEAEモデルマウスを用いた実験系を確立し評価を行う予定であった。しかし、COVID-19感染拡大防止対策の中、長期間の動物実験計画の見通しが立てにくいと判断し、既に採取済みの単相性EAEモデルマウス脳・脊髄サンプルを用いたH-3 PK11195 in vitro ARG実験や免疫組織化学染色により、ミクログリアとアストロサイトの活性化状態に関するより詳細な検討を行うことに方針変更した。当初計画していた慢性再発型のEAEモデルマウスでの評価は遅延してしまったものの、MS診断におけるアストロサイトイメージングの意義を評価する上で必要な基礎的データを得ることができたと考えるため、自己評価は「(3)やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究成果を踏まえ、酢酸代謝によるMS診断の有用性に関する検討を下記の実験計画に従って継続する。 ①慢性再発型のEAEモデルマウスを用いた実験系を確立し、C-14 Acetateが再発の予測に有用であるか検証する。 ②慢性再発型のEAEモデルマウスにおけるC-14 Acetate集積に対する治療薬(フィンゴリモド等)の影響を検証する ③上記計画①②について、H-3 PK11195の結合変化および免疫組織化学染色の結果をふまえて、ミクログリアとアストロサイトの活性化状態との比較検討を行う
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大防止対策の中、長期間の動物実験計画の見通しが立てにくいと判断し、今年度は既に採取済みのサンプルを用いた実験に注力したため、予定していた慢性再発型のEAEモデルマウスを用いた実験を実施することができなかった。当該実験計画については、次年度に実施する予定である。
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