本研究では、脳エネルギー代謝のPETイメージングにより多発性硬化症(MS)診断が可能であるかについて、MSの病態研究に使用されることの多い実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデル動物を用いた評価を進めた。これまでに、ミエリン塩基性タンパク(MBP)投与による単相性のEAEモデルラットを対象としたC-14 Acetateを用いたex vivoオートラジオグラフィ実験を行った結果、神経症状が出現するよりも早い時期からC-14 Acetateの脳内および脊髄への集積が増加することが明らかとなった。また、MS治療薬であるフィンゴリモド投与による集積の変化および、グリア細胞の免疫染色の結果から、C-14 Acetateは特にアストロサイトの変化を反映するマーカーになり得ると示唆された。一方、再発寛解型MSに類似した再発性のEAEが誘導されるプロテオリピッドタンパクPLP139-151を処置したマウスを用いてC-14 Acetateのex vivoオートラジオグラフィ実験を実施した結果では、初発のPLP139-151誘導性EAE症状が出現した段階ではC-14 Acetateの脳内集積に変化は認められなかった。このように、単相性モデルと再発寛解型モデルとで、EAE神経症状出現時のC-14 Acetateの脳内集積の変化に差が見られたことは、酢酸代謝を指標としたアストロサイトイメージングがMS進行型の分類に活用できる可能性を示唆するものであると考えられた。今後、MS進行型や経過に関連した脳内酢酸代謝の変化をさらに明らかにすることで、MS診断への応用が可能であると期待される。
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