研究課題
本研究は、リンパ流の速度と静脈血に多量のデオキシヘモグロビンが含有されている点に着目し、非造影で動静脈の信号が抑制された選択的MRリンパ管撮像法を開発することを目的とした。フローファントムを作製および使用し、傾斜磁場を用いて動きのあるプロトンからの信号を抑制する技術であるimproved motion-sensitized driven-equilibrium(iMSDE)法の流速エンコード値とプロトンの横磁化の差を強調する先行パルスの印加時間の最適化により、静脈枝の血流速度1~2 cm/secの信号を抑制し、0.61cm/min程度の極低流速のリンパ管を高信号に描出する非造影MRリンパ管撮像法を開発し、その成果を第49回日本放射線技術学会秋季学術大会にて発表した。健常ボランティアの臨床的研究では、ファントム実験で最適化されたiMSDE法は、非造影MRリンパ管画像として使用されるheavy T2強調画像と比較し、大伏在静脈と静脈枝の信号抑制効果が有意に高くなることが明らかとなり、従来の撮像技術ではリンパ管と識別できない静脈信号を抑制可能であることが示されたのは本研究の大きな成果である。ファントム実験と健常ボランティアによる研究成果は、論文化が完了し、現在投稿準備中である。健常下肢の非造影MRリンパ管画像には、リンパ管が描出されなかったため、撮像法標準化のために、21歳から60歳までの幅広い年齢層の健常者20名を対象に、膝関節の屈曲位・進展位、下肢挙上、撮像前の飲水・30分歩行、撮像中の腹式呼吸の条件下にて非造影MRリンパ管画像を撮像したが、リンパ管が描出された健常肢は1例も無く、多様な生理的条件下で健常肢のリンパ管は描出されないことが確認できた。現在はリンパ浮腫症例を対象に本法を実施し、リンパ管の描出パターンを検証中であり、結果が整い次第論文化し、投稿する予定である。