本研究では、放射線由来の活性化学種の生成およびそれによる酸化反応量の定量測定に基づき、生物応答の引き金となる初期化学反応の解析を試みた。 2019年度から2020年度にかけて、高濃度過酸化水素中でのみ生じるニトロキシルラジカルの還元反応に基づいて、X線照射により水中に生じる高濃度過酸化水素クラスター間の距離の測定を試みた。その結果、高濃度過酸化水素クラスター間の距離は40 - 47 nm程度であることを明らかにし、論文にまとめて雑誌にて報告した。 2019年度から2020年度にかけて、X線または重粒子(炭素)線を照射した水中に生成する過酸化水素の定量を行い、またその生成メカニズムについて調べた。その結果、炭素線を照射した水中にも高濃度の過酸化水素の集団が生じていることが分かってきた。また大気下および無酸素条件下で重粒子線による水中での過酸化水素の生成量を測定した結果、放射線のLETが大きいほど酸素非依存的な過酸化水素生成が増加して、酸素依存的な過酸化水素生成が減少することを実験的に明らかにし、雑誌で報告を行なった。この結果は既に報告しているヒドロキシルラジカルの2つの異なる生成密度を裏付けるもので、LETの増加とともに疎なヒドロキシルラジカル生成が減少し、密なヒドロキシルラジカル生成の割合が増加するという結果をよく反映している。 2020年度は、油脂あるいはリポソーム懸濁液試料を用いて、放射線により脂質中に生じる過酸化反応の定量的検出を試みたが、脂質中においてプローブ分子の予期せぬ挙動が観察され、検出法の再検討が必要であることが分かった。 2021年度は、新たに開発した脂質ラジカル検出法に基づき、油脂あるいはリポソーム懸濁液試料を用いて、X線あるいは炭素線により脂質中に生じる脂質ラジカルの定量的検出を試みた。
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