原子力発電所事故や放射線災害等により大気中に放出・拡散された放射性物質は、呼吸によって体内に取り込まれ内部被ばく(吸入被ばく)する。そのような被ばく者に対して適切かつ迅速な処置を実施し、人体への影響を最小限に抑えるためには、吸入被ばく線量を正確に評価することが重要となる。実際の大気環境中では、放射性物質は大気中の微粒子(大気中に存在する様々な大きさの粉塵)に付着し大きさが多様に変化する。したがって、多様な大きさの放射性物質が存在する環境下(すなわち実環境)における吸入被ばく線量を計算できるコードの開発が急がれていた。本研究は、吸入被ばく線量評価を正確に実施することを目的に、吸入する放射性物質の形態(粒子の大きさ)に応じた吸入被ばく線量を計算するツールを新たに開発するものである。このツールの活用によって、大気環境中の放射性物質の計測を行う実験系研究者(線量評価の専門家でない研究者)であっても自身の測定データから実環境に応じた線量を容易に計算できるようになる。実験に関しては、研究代表者がこれまで実施してきた放射性物質の形態研究や線量計算のシステム化の知見や経験をもとに本ツールの開発を進めてきた。 昨年度まで新型コロナウィルスの流行拡大の影響で限定的な検討を行ったが、本年度は本ツールの地域性の違い等について検討した。また、本研究課題を通じて得られた成果の一部について学会発表や論文発表を行った。
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