研究課題
粒子線治療は高エネルギーに加速した陽子や炭素を腫瘍に照射し、がんを治療する治療法であり、ブラッグピークによる優れた線量集中性が大きな利点である。この利点を最大限に発揮するためには腫瘍の位置や形状を照射中にモニタリングすることが理想的である。核磁気共鳴画像は線量集中性の高い粒子線治療との組み合わせでこそ効果を発揮すると考えられているが、これを実現するためにはイメージング用の磁場の中で一次ビームおよび二次粒子ともにローレンツ力を受けることになるので、磁場による偏向と線量分布への影響を評価する必要がある。本研究では、水中における磁場によるビームの偏向と線量分布への影響をモンテカルロシミュレーションによって評価する。ドイツのグループのMRI誘導陽子線治療実現に向けた実験的研究により、低磁場(< 0.3 T)の開放式MRIでも画像誘導粒子線治療を実現するのに十分な画質が得られることが分かったため、低磁場タイプの方が実現性が高いと判断し、開放式MRIの設置を念頭に置いた計算モデルの構築を行った。更に中国のグループにより、0.055 T 超低磁場MRIが実証され、MRI誘導粒子線治療はX線と違って超低磁場MRIとの組合せが最も現実的だと考えられる。当初の構想とは形を変えることになったが、これらの低磁場条件での計算を実施した。400MeV/u炭素線の場合、磁場によるブラッグピークの水平シフト量は1.5T、0.3T、0.055Tでそれぞれ10 mm、2 mm、0.5 mmと評価された。0.3T以上の場合は線量分布計算に磁場の影響を考慮する必要があるが、0.055 Tであればビームのシフト量は小さく、線量計算アルゴリズム上の大きい変更は必要としない可能性が示唆された。最終年度には、二次粒子も含めた線量分布への影響を検討する。
3: やや遅れている
本研究はモンテカルロ法による粒子輸送計算コードによって入射粒子および二次粒子の運動を計算し、MRI磁場による線量分布への影響を評価する。ビーム条件としては山形大学重粒子線治療施設で想定されるスキャニング用のペンシルビームを用いる。粒子輸送計算コードには国産のコードであるParticle and Heavy Ion Transport code System (PHITS) を使用し、一次ビームのみならず2次電子や核破砕片の運動への磁場の影響、さらには線量分布における磁場の影響を定量的に評価する。研究計画において、明らかにする項目は以下とした。1) 炭素ビーム軌道への磁場の影響 2) 線量分布への磁場の影響 (ア) 1次ビームによる線量 (イ) δ線による線量 (ウ) 二次粒子(陽子、ヘリウム)による線量 3) 治療計画に適用するためのビームモデルの導出上記のうち、1), 2)(ア)(イ)(ウ)までが今年度までにほぼ達成できているが、最後の3)が期間内に達成できなかったため、(3)と評価した。
当初の計画では治療計画に適用するための解析的ビームモデルの導出を目標としていたが、モンテカルロ法による線量分布アルゴリズムにおいて、核磁気共鳴画像誘導で付加される現実的な磁場分布を取り入れる方策について検討する。また、実際に想定するMRIについて、当初の想定より低磁場のものに変更し、再度計算・評価を実施する。
コロナウイルス対策等で研究時間が想定通り確保できなかったこと、および国内外への出張が完全にできなかったことにより次年度使用額が生じてしまった。次年度は可能な限り国内外で成果発表を実施したい。
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