研究課題
本研究では、過酸化チタンナノ粒子をはじめとする複数の性質の異なるナノ粒子を用い、その物理化学的性質と生物学的効果の両方を評価することにより、最適な放射線増感効果をもたらす無機ナノ粒子の条件を明らかにすることを目的としたが、本年度は(1)金ナノ粒子と過酸化チタンナノ粒子における過酸化水素、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種(ROS)の細胞外での発生状況の違いを検討した結果、金ナノ粒子ではヒドロキシラジカルが放射線線量増加に従って増加したことに対し、過酸化チタンナノ粒子では過酸化水素とヒドロキシラジカルが増加した。(2)ナノ粒子をヒトがん細胞に取り込ませた後に放射線照射を細胞に対して実施し、細胞内でのROSの発生状況を蛍光色素を用いて検出した。その結果、過酸化チタンナノ粒子を取り込ませた細胞では過酸化水素をより多く発生していることを検出できたことに対し、金ナノ粒子では過酸化水素の発生もわずかであった。(3)培養細胞を用いたIn vitroの比較をアポトーシスを検出するTunel法と、コロニー増殖法を用いて実施した。過酸化チタンナノ粒子を取り込ませた細胞に、より高頻度のアポトーシスが認められ、より強い放射線増感効果が認められた。(4)担癌マウスモデルを用いたIn vivoでの放射線増感効果の比較を実施した。In vitroでの結果と同様に過酸化チタンナノ粒子を局注した群においてより強い増殖抑制効果が確認できた。また腫瘍の切除標本の解析では過酸化チタンナノ粒子を局注した群の腫瘍において、細胞内にグルタチオンやカタラーゼなどの抗酸化酵素の活性化が広く認められ、これらの結果は間接的に過酸化チタンナノ粒子と放射線治療の併用によって細胞内で過酸化水素が多く発生し、それに反応した細胞が生存の為にグルタチオンやカタラーゼを活性化したことが予想される。
2: おおむね順調に進展している
過酸化チタンナノ粒子は金ナノ粒子に比べて、過酸化水素の発生を介してより強い放射線増感効果を発揮することが確認できたが、金ナノ粒子の粒径や濃度の関しては、コマーシャルベースで入手できる範囲が限られていたため、その最大可能投与量に関しては確認する事が出来なかった。更なる検討に関しては実験室レベルで金ナノ粒子を製造している企業や研究室へ作成や譲渡を依頼などであるが、そもそも金ナノ粒子は広く報告のあるナノ粒子であるために、金ナノ粒子は生体との親和性が良好で毒性が少なく、光電効果やコンプトン反応を介しているが、科学的な新規性には乏しく、むしろ過酸化チタンナノ粒子の粒径を均一化し、より効果の高い剤形を絞り込んでいくことの方がより重要な課題であると考えている。腫瘍の切除標本の解析では過酸化チタンナノ粒子を局注した群の腫瘍において、細胞内にグルタチオンやカタラーゼなどの抗酸化酵素の活性化が広く認められたことは新規性の高い研究成果で有り、この結果から、過酸化チタンナノ粒子がどの程度、またどの期間、過酸化水素を発生しているかどうかに関して、重要な手がかりを得ることが出来た。この結果を踏まえて、過酸化チタンナノ粒子の投与回数や投与期間を決定していくための重要な手がかりを得たと言える。現在は二酸化チタンナノ粒子を原料にして神戸大学工学系研究科にて過酸化チタンナノ粒子を製造しているが、材料の粒子径によって、過酸化チタンナノ粒子の性能が異なる。本研究では複数の条件から最適の材料と製造方法を確定し、過酸化チタンナノ粒子の規格化を行うが、過酸化チタンナノ粒子における最適の一次粒子を6nmと30nmの粒径に絞り込み、二次粒子に関してはそれぞれ3種類作成し、最終的には予備実験の結果で、最終的な規格を決定する。
ROSの測定法はほぼ安定化してきており、今後は過酸化チタンナノ粒子の表面修飾をPEGに変更させて分散化する実験や粒径の最適化を検討していく。 非臨床試験本研究の非臨床試験では医療機器として登録されている放射線照射装置を用いる必要があるが、申請者らは大阪府立大学獣医臨床センターに設置されている医療用放射線照射装置を用いる予定であり、共同研究体制は構築済である(図4)・薬効動態試験:過酸化チタンナノ粒子は腫瘍細胞に取り込まれ、腫瘍細胞が死滅した後には近傍の腫瘍細胞に取り込まれるが、その後は体内循環を通じて肝臓に集積する。肝臓に集積した後の動態に関しては、基礎データがないため、今回の申請において過酸化チタンナノ粒子の体内動態を詳細に検討する。・有効性評価試験:治験プロトコルの放射線照射は、腫瘍の部位に応じて3-5 Gyを週5回照射し、2週間(合計10回)、総線量30-50 Gyを予定している。CT画像と放射線治療計画装置を用いて、処方線量95%の腫瘍体積が95%以上を達成することを基準とする。過酸化チタンナノ粒子の局所注入は週に1回、治療期間中に2回投与予定である。過酸化チタンナノ粒子の1回の投与量に関しては、上記予備試験によって得られた結果を参考にして決定する。・安全性評価試験:規格化された過酸化チタンナノ粒子に関して、単回投与毒性試験(ラット、イヌ)、4週間反復試験(ラット、イヌ)、遺伝毒性3試験(復帰突然変異試験、染色体異常試験、小核試験)、投与液の化学分析、血中濃度分析(ラット・イヌの単回・反復4試験分)を予定している。
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