研究課題
近年、chemical-exchange saturation-transfer(CEST)と呼ばれるMRIの新たな分子イメージング法が注目されている。これは、組織中のアミド(-NH)やヒドロキシル(-OH)などの溶質とバルク水の間で生じるプロトンの化学交換にもとづく画像法である。このうち特に内因性のアミドによるものをamide proton transfer(APT)イメージングと呼ぶ。これまで不可能だった低濃度の可動性タンパクやペプチドの高感度検出が可能となり、腫瘍の悪性度判定などへの応用が研究されはじめている。最近になり、新生児期の脳では強いAPTの信号がみられることが報告され、髄鞘化前のオリゴデンドロサイト細胞質内のタンパク合成を反映しているものと推測されている。本研究では、APTイメージングによるオリゴデンドロサイトの細胞内可動性タンパクを検出する手法や解析法を確立することを目的とする。これが確立されれば、髄鞘化が始まる前の時期の脳の発達の新たな指標となり、新生児期のPVLなどによる障害の検出において、新たな画像的アプローチとなり得る。研究期間中、30例の患児においてAPTイメージングの撮像を行い、前方大脳白質、後方大脳白質、放線冠でAPT値を測定した。前方大脳白質のAPT値は、後方大脳白質と放線冠よりも低値であった。年齢がAPT値と相関を認めたが、在胎日数や出生時体重はAPT値と相関を認めなかった。新生児仮死や精神運動発達遅滞の有無において、APT値に有意差はみられなかった。神経学的長期予後を反映するとされる出生5分後のアプガースコアで比較しても、APT値に有意差はみられなかった。またPVLの有無において、APT値に有意差はみられなかったが、PVLを認めた症例は1例のみで、十分な症例数が得られなかった。