放射線治療の一種である炭素線照射による効果を調べるため、正常細胞とがん細胞における炭素線照射後の遅発性活性酸素の誘導、およびアスコルビン酸2グルコシド(AA-2G)による効果について調べた。今回、ヒト正常細胞としてBJ/hTERT細胞(ヒト線維芽細胞)、がん細胞としてヒト大腸癌由来RKO細胞を用いた。炭素線照射は放射線医学総合研究所のHIMACを利用し、290 MeV/nの炭素線(LET=13.3 keV/um)6 Gyを細胞に照射した。その結果、いずれの細胞においても、照射2~3日後にかけて、Oxiorangeと反応する活性酸素種(OHラジカル)の誘導が見られた。一方、照射後の生存率をコロニー形成法で調べたところ、BJ/hTERT細胞では炭素線6Gy照射により1.3%の生存率であったが、照射後から2.5mM AA-2Gを処理すると、生存率が2倍以上になった。2.5mM AA-2G処理は遅発性活性酸素を抑制することから、炭素線照射による致死効果に遅発性活性酸素が関与していることがわかった。また、炭素線照射3、5日後におけるp53の蓄積やATMの活性化もAA-2G処理で抑制された。老化細胞の指標であるSA-βGal陽性細胞の数は照射10日後に増えたが、AA-2G処理で顕著に抑制された。これに対して、RKO細胞ではAA-2G処理による生存率への効果はみられず、老化細胞の出現頻度にも影響しなかった。これらの結果より、p53ー老化誘導の経路が正常な細胞において、遅発性活性酸素はその経路への誘導を促し、照射後の致死影響に関わっていることが示唆された。またAA-2Gは、炭素線照射後の正常細胞において防護作用をもたらす可能性が示唆された。
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