研究課題/領域番号 |
18K07768
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鍵谷 豪 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (30524243)
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研究分担者 |
小川 良平 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 准教授 (60334736)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞死 / アポトーシス / ネクローシス / 非侵襲的リアルタイムイメージング / 細胞死可視化システム |
研究実績の概要 |
細胞死は,古典的にアポトーシスとネクローシスに大別される。放射線治療により腫瘍内では,放射線の細胞への直接的アタックを介したアポトーシスやネクローシスが誘発されるばかりでなく,放射線の腫瘍血管細胞の傷害による酸素と栄養枯渇を介した二次的なアポトーシスやネクローシスも誘発される。このため,腫瘍内で誘発されるアポトーシスやネクローシスを非侵襲的リアルタイムに可視化するシステムは,その光情報を指標とし,放射線による腫瘍内細胞死の時間的空間的(4次元)動態解析を可能にし,放射線治療条件の評価及び新規抗がん剤の探索等に有用なツールになり得ると考えられる。今年度,我々はこれまでに構築したアポトーシス可視化システムの高発光型への改良及び考案したネクローシス可視化システムの構築を目的とした。その結果,アポトーシス可視化システムについては,ホタル由来ルシフェラーゼ(Luc)と比較し高い発光値と熱安定性に優れたエビ由来Lucから環状型Lucを構築することで,アポトーシス誘導時の発光値を従来のホタル由来システムと比較し約3000倍と高発光型へ改良し,また37℃3時間培養後においても発光値の低下を認めない熱安定性に優れたシステムへの構築に成功した。ネクローシス可視化システムに関しては,ホタルまたはエビ由来Lucを2分割にし,プロテインスプライシング配列を付加した2断片Luc型可視化システムを構築した。ネクローシス誘発時の発光値を比較した結果,エビ由来可視化システムはホタル由来と比較して約5倍高値を示した。また2断片化したLucの難分解化による高発光型システムへの改良を試みた結果,プロテアーゼに対し難分解性を示すIgG-Fc配列をLucのC末端断片に付加した場合,37℃60分培養後の発光値はこれまでと比較し約100倍高値を示し,熱安定性に優れた高発光型ネクローシス可視化システムへの改良に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下2つの細胞死可視化システムの改良と構築をおこない,in vitroでその発光特性評価をおこなった。1.高発光型アポトーシス可視化システムへの改良:これまでに構築したアポトーシス可視化システムはホタル由来環状型Lucを骨格とする。しかし,その熱安定性は悪く,マウス実験においては発光値が低くなるという問題点があった。このため我々は高い発光値と熱安定性に優れたエビ由来Lucを用いることで,この問題を回避できると考え,新たにエビ由来環状型Lucを構築し高発光型システムへの改良を試みた。その結果,構築したエビ由来環状型Lucのアポトーシス誘導時の発光値は,従来のホタル由来と比較し約3000倍高い値を示した。また,37℃3時間培養後においても発光値の低下を認めない熱安定性に優れたシステムへの改良に成功した。2.ネクローシス可視化システムの構築:プロテインスプライシング(PS)とは,インテイン(DnaE)が取り除かれエクステインが連結する反応である。2断片化したLucのN末端断片(LucN)にDnaEを付加したペプチドを発現する細胞とLucC末端断片(LucC)にDnaEを付加したペプチドを発現する細胞がネクローシスを起こした場合,細胞膨張によりそれぞれの断片が細胞外に溶出され,PSによるLucの再構成後,発光反応によりネクローシスのイメージングを可能にする。ホタルまたはエビ由来Lucを用い2断片型システムを構築し発光値を比較した結果,エビ由来Lucはホタル由来Lucと比較してネクローシス誘発時に約5倍高値を示した。次に2断片Lucの難分解化による高発光型システムへの改良を試みた。プロテアーゼに対し難分解性を示すIgG-Fc配列をLucCに付加した場合,37℃60分後の発光値はLucCと比較し約100倍高値を示し,熱安定性に優れた高発光型ネクローシス可視化システムへの改良に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的達成のため,以下3つの項目を研究期間内に実施予定である。1.腫瘍内アポトーシス及び低酸素細胞アポトーシスの非侵襲的リアルタイムイメージング:構築したアポトーシス可視化細胞株及び低酸素応答アポトーシス可視化細胞株を,マウス皮下に移植し担がんマウスを作成する。腫瘍に放射線照射または抗がん剤であるスタウロスポリン投与後,アポトーシスを誘導し高感度EMCCDカメラを用い発光によるアポトーシスの可視化を試みる。さらに,低酸素領域のみで細胞毒性を示す低酸素活性化プロドラッグTH302を用い,腫瘍における低酸素応答アポトーシス可視化システムの機能を確認する。この腫瘍内低酸素細胞アポトーシスの非侵襲的リアルタイムイメージングは世界初の試みである。2.腫瘍内ネクローシスの非侵襲的リアルタイムイメージング:構築したネクローシス可視化細胞株をマウス皮下に移植し腫瘍形成をおこなう。腫瘍へ放射線照射または界面活性剤を注入しネクローシスを誘発後,アポトーシスの可視化と同様にEMCCDカメラを用い発光によるネクローシスの可視化を試みる。化学発光を用いた腫瘍内ネクローシスの非侵襲的リアルタイムイメージングもまた世界初の試みである。3.同一腫瘍内でのアポトーシスとネクローシスの同時可視化システムの開発:上記2つの可視化システムはエビ由来Lucを基本骨格としているため,発光波長が460 nm(青色)と同一である。このため,アポトーシス可視化細胞株とネクローシス可視化細胞株を混合し移植した腫瘍を用いて両細胞死を誘発した場合,同一発光波長のため,それぞれの細胞死を区別し検出することは出来ない。発光波長613 nm(赤色)を有するLucを骨格にアポトーシス可視化システムを再構築し,アポトーシスとネクローシスの同一腫瘍内同時イメージングによる細胞死の腫瘍内分布や経時変化等の4次元動態解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題申請時の計画において,平成30年度はホタル由来Lucを用いた2断片型ネクローシ可視化システムのin vitroでの発光特性評価,及びマウス腫瘍内ネクローシスの可視化を試みる予定であった。しかし,ホタル由来ネクローシス可視化システムのネクローシス誘発時における発光値は,エビ由来Lucを用いたシステムと比較し約1/1000倍程低く,またLuc再構成後37℃30分培養における発光値はバックグランドレベルであったことから,高感度EMCCDカメラを用いても腫瘍内ネクローシスを可視化出来ないと考えた。このため,ホタル由来ネクローシス可視化システムを染色体に保有する安定発現株の構築に関わる消耗品及びその細胞を移植するヌードマウス等を購入する必要がなく,使用額に差が生じた。これら差額費用は,同一腫瘍内アポトーシスとネクローシスの同時可視化システムの開発におけるプラスミド構築及びその発光特性評価に用いる酵素や発光試薬等の消耗品に使用予定である。
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