研究課題/領域番号 |
18K07771
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
茂松 直之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (30178868)
|
研究分担者 |
深田 淳一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50338159)
公田 龍一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00464834)
小池 直義 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60464913)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 放射線生物学 / 膵臓癌 / オートファジー / クロロキン |
研究実績の概要 |
前年度に続いて膵臓癌に対するクロロキンの放射線増感効果を探索した。ヒト膵臓癌培養細胞MiaPaCa2におけるクロロキンの至適投与濃度を検討するため、WST-8を用いて吸光度を測定し、クロロキン投与後の生細胞数を測定した。96well plateにMiaPaCa2を2x103/wellで播種し、クロロキン(0、1、2、5、10、20、50 μM)を加え、72時間後に細胞数の測定を行った結果、IC50%は5-12μM程度であった。 次に放射線増感効果を評価するためにコロニー形成法を行った。10cmディッシュに500、1000、5000、100000個の細胞を播種した。同日クロロキン0あるいは5μMの投与を行い、培養開始から24時間後に放射線照射0、2、5、10Gyを行った。クロロキンを含んだ培地は72時間後に交換した。10-14日後に固定し、細胞の生存率を計測した。10Gyでの生存率はクロロキン投与群で4.4-6.9%、非投与群で2.4-3.5%であり、通常培地におけるクロロキン投与による明らかな放射線増感効果は得られなかった。 次に膵癌組織の低酸素状態に近い状態でのクロロキンによる増感効果を評価するため、Propidium iodide(PI)を用いて評価することとした。96well超低接着プレートにMiaPaCa2を1x103/wellで播種し、24時間後にクロロキン(0、5、10μM)の投与、72時間後に放射線照射(0、5、10)Gyを行った。培養開始後6日目にPIを投与し、7日目に蛍光顕微鏡にて観察した。放射線照射群、クロロキン投与群、放射線照射+クロロキン投与群はコントロールと比し蛍光が強い傾向にあった。しかし、放射線照射にクロロキン投与を加えることによる定性的な上乗せ効果は明らかではなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まずクロロキンによるIC50%が5-12μM程度であるという結果を培養細胞MiaPaCa2を用いたWST-8 Assayより得ることができ、基礎となるクロロキン投与量を確定することができた。次に、クロロキンの放射線増感効果の評価をコロニー形成法で測定したが、通常培養でのコロニー形成能はクロロキン投与併用においても大きな変化は見られず、放射線増感効果は明らかでなかった。 続いて、スフェロイド形成下におけるクロロキンの放射線増感効果の評価を行った。前年度はスフェロイドのサイズ評価を行ったが、形状が不整であることから評価が難しかったため、今回は死細胞を染色するPIを用いた。本検討ではクロロキン投与・放射線照射を行うことで細胞死が亢進している事を確認することができた。しかし、クロロキン投与を放射線照射に追加することによる蛍光の増加は定性的に認められず、明らかな放射線増感効果は観察できなかった。これに関してはMiaPaCa2のスフェロイド形成能が高くない事が原因である可能性も考えられ、よりスフェロイド形成能が高いとされているCapan-1での再検を検討している。 クロロキン至適濃度を確定し、通常培地でのクロロキン投与による放射線増感効果は見られないことまでは示せたが、進捗状況としては、予定よりやや遅れている。この理由としては、コロニー形成法に適した細胞数やクロロキン濃度、暴露期間など検討すべき因子が多岐にわたり、条件確定に時間を要したことと、明らかな増感効果が見られないか条件を変じて繰り返しの実験を要したためである。次年度は今年度得られた培養条件や検討した細胞腫を利用する事で、効率的に研究を進めることが可能と思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
1)低栄養培地におけるクロロキン投与と細胞応答 次年度はまず、オートファジーが十分に発現すると思われる低栄養培地で細胞を培養し、細胞応答について検討を行う。具体的には細胞生存率、DNA損傷、オートファジー発現、アポトーシス誘導、細胞周期の変化について検討する。3次元スフェロイド形成の手法は本年度確立しているが、より良好なスフェロイド形成を得るため、細胞腫はCapan-1を用いる。放射線照射、クロロキン投与、照射と薬剤併用の3群で処理を行い、変化を比較する。オートファジーを検出するBeclin-1抗体とPIによる多重染色を行い、オートファジーの阻害と細胞死の関連につき解析する。免疫染色による蛍光の観察に加え、フローサイトメトリーによる定量的測定を行う。 2)クロロキン投与とmTOR阻害剤投与の比較 前項と同様の処理を行い、mTOR系活性を解析することでクロロキンの作用部位、作用機序を明らかにする。これまで当研究室で解析してきたmTOR阻害剤(エベロリムス)はクロロキンと異なりオートファジーを活性化する。mTOR阻害剤は抗腫瘍効果を有しており放射線との併用効果も観察されている。この点について、クロロキンと抗腫瘍効果、作用を比較検討することで放射線増感効果が高い薬剤を特定する。 3)実験動物を用いた放射線増感効果 in vitro でクロロキンによる放射線増感効果を明らかにできれば、膵癌細胞をヌードマウス大腿皮下に移植し腫瘍を形成させる。放射線照射、クロロキン投与、照射とクロロキン投与を行い、腫瘍増殖率を測定する。さらに固定凍結切片を作成し、in vivo におけるオートファジー活性及びmTOR活性を評価する。免疫染色や動物用CT撮像もこれまで経験しており、臨床応用に結びつけ、治療成績向上につながりうる研究となるように実験を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、今年度予定していた低栄養培地におけるクロロキン投与と細胞応答ならびにクロロキン投与とmTOR阻害剤投与の比較については前述の進捗状況から十分検討を進めることができなかった。そのため上記検討で予定していた消耗品(実験試薬等)については購入に至らず次年度に購入して使用する予定である。さらに一部の試薬、消耗品実験器具については研究室内で効率的に購入が可能であり、合わせて次年度有効に利用する計画である。
|