研究課題/領域番号 |
18K07773
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
寅松 千枝 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (90421825)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PETイメージング / 粒子線治療 / 生物学的洗い出し効果 |
研究実績の概要 |
粒子線治療の線量検証に利用するPET画像から定量的に、機能的・生物学的情報を得ることができれば、それは治療効果の診断に用いることができる。本年度はPET測定で支配的な陽電子放出核である11Cおよび15Oビームをウサギの脳に照射し、その生物学的洗い出し効果の機序の解明に向け基礎データを取得した。 照射は放射線医学総合研究所 のHeavy Ion Medical Accelerator in Chiba(HIMAC)の二次ビーム照射室にて行った。測定には我々の開発したin-beam PET試作機を用いた。11Cおよび15Oビームはそれぞれを3羽ずつ別の個体に照射し、合計6羽のデータを取得した。11Cビーム照射の場合は42分間、15Oビーム照射の場合は20分間のPET測定を行った。 取得したリストモードデータは30秒ずつフレーム分けし画像再構成を行った。CT画像とフュージョンすることで心臓・肺の位置を同定しその放射線強度の減衰曲線を取得した。そしてMultiple Component Modelを仮定することで、生物学的洗い出しの速度成分を導出した。生物学的洗い出し効果により入射ビームが拡散し血液体積の高い領域に陽電子核種の分布が集中する様子が観察された。心臓・肺領域において11C照射実験では遅い洗い出し速度成分が観察され、15O照射実験では早い成分と遅い成分の二成分が観察された。また、特に11Cビームの照射後、陽電子核種が血液体積の高い領域に分布する様子が見られた。また、15Oビームを照射した場合には、11Cビームを照射した場合と比較し、全身に広く拡散した陽電子核種の分布が得られた。今回の実験にて脳に照射した11Cと15Oビームでは異なる拡散の様子が観察され、生物学的洗い出し効果の機序の解明に向けて有用な基礎データが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では半年間で実験を終えて解析に取り掛かる予定であったが、実験動物の飼育場所のルールにより一回の実験に準備できるサンプル数に制限が生じた、そのため、統計的に必要なサンプル数を集めるのに計三回の実験が必要となり、実験データの収集に一年近くかかってしまった。しかし、解析は順調にすすみ、おおむね当初の予定どおりに研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、生物学的洗い出し効果の機序の解明を進め、そしてより臨床使用を目的とした方向へ進めていく予定である。これまでは、multiple component modelを仮定することで、生物学的洗い出し速度を各ビーム核種・臓器ごとに導出し、それぞれの生物学的減衰係数が異なることを示した。今後は、生体内におけるRadio Isotope(RI)の複雑な動きを記述するため、臨床薬物動態学に用いられるtwo-compartment modelを仮定した解析を進めていく予定である。compartmentとは薬物が種々の移行過程を経過する中で速度論的に区別できる薬物の存在状態のことであり、このcompartment間を速度定数によってつなぐことにより、薬物の生体内での動きを表現するものがcompartment modelである。これにより時間次元の式が容易に求められる。解析結果を、一般的な診断に用いられたPETスタディとの比較することで、入射ビームの体内での化学組成について議論を進める予定である。 さらに、正常細胞とがん細胞がある場合で生物学的洗い出し効果の差が現れるかを確認するため、担がんマウスを用いたビーム実験計画を策定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、麻酔器や小動物用の呼吸モニタリング装置の購入を予定していたが、実験施設の他グループの物品を借用することができたため、次年度使用額が生じた。 次年度に、再現性確認が重要となる薬剤を使用した実験を計画しており、その実験費用に使用する予定である。
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