粒子線治療のin-vivoによる線量分布検証法として陽電子放出断層撮影(PET)が用いられてきた。これは照射した粒子ビームと患者体内での原子核破砕反応により発生した陽電子放出核(主に15O、11Cイオン)をPETで可視化するという原理である。しかし、発生した陽電子放出核は生理学的現象により拡散するため、精密な検証を行うにはこの生物学的洗い出し効果をモデル化し補正することが必要である。また、生物学的洗い出し効果は照射に対する反応を示しているという臨床報告があり、この効果を定量評価することで診断の指標として用いることができる可能性がある。本研究では生物学的洗い出し効果のモデル化を目指す為、ウサギの脳に15O及び11Cビームを照射しPET撮像によりダイナミックデータを取得した。そして、放射性薬物動態解析の手法を用い入射ビームの代謝を解析した。 その結果、15Oビームを照射した場合、組織から血管への透過速度はH215Oのように単純拡散するトレーサと同等であった。一方、11Cビームを照射した場合、透過速度はより遅い値であった。入射11Cビームは単純拡散せず11CO2や11COの化学系となり、何らかのトランスポータにより輸送される成分があることが示唆される。 考察として、生物学的洗い出し効果の機序を解明し、洗い出し速度をPET診断の臨床的な指標として利用するためには15O及び11Cを含む分子の化学系をよく検討し決定することが必要不可欠である。本照射実験では照射RIビームの動態解析を行うことで、生物学的洗い出し効果のモデル化に向けて新たな基礎データを得ることができた。
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