研究課題/領域番号 |
18K07774
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
岡崎 龍史 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 教授 (50309960)
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研究分担者 |
香崎 正宙 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 助教 (90717977)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射線適応応答 / p53 / 寿命延長 / 低線量放射線 |
研究実績の概要 |
低線量放射線影響の科学的データを示すことは非常に困難であるが、放射線適応応答が唯一科学的データを示すことができる方法である。つまり低線量を被ばくしてから高線量を被ばくすると、高線量単独被ばくよりも影響が減少するという現象である。しかしながら、影響が減少したことが、DNA損傷の修復や変異等と関連があるかどうかは不明である。そこで、寿命を見ることによって、延長が見られるのであればDNA損傷の修復と判断できると考えた。 8週齢p53遺伝子正常マウス、p53へテロマウス及び40週齢p53遺伝子正常マウスに対して、当大学RI センター所有の137Cs γセルにてγ線3 Gy(0.70Gy/min)および低線量放射線装置によって全身照射する(照射群)。照射方法は、a.0 Gy (対照群)、b.0.02 Gy、c.3 Gy、d.0.02 Gy照射96時間後3 Gy照射である。p53遺伝子正常マウスにおいて、aとb照射群では有意な差は認められなかったが、cとd照射群を比較すると、d照射群で寿命延長の傾向がみられている。しかしながら、p53へテロマウスでは、放射線適応応答の現象はみられていない。このことは、放射線適応応答においては、DNA損傷の修復の可能性があると考えられ、またp53遺伝子の関与が重要であることが示唆された。40週齢p53遺伝子正常マウスは経過観察中である。 死因としては、リンパ腫によるものが多いことが認められている。 microRNA解析においては、ヒートマップにてaからd照射群で明らかに違いがみられた。今後は、どのmicroRNAがバイオマーカーとなるのかを検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
8週齢p53遺伝子正常マウス、p53へテロマウス及び40週齢p53遺伝子正常マウスを用いて、照射実験はこれまで行ってきたデータを合わせると、p53遺伝子正常マウスにおいてのみ寿命延長効果がみられる傾向にある。マウス匹数を増やしていけば、統計的に有意な差がみられる可能性がある。p53へテロマウス及び40週齢p53遺伝子正常マウスにおいても、寿命延長効果がみられない傾向にあるが、マウス匹数を増やすことにより、今後統計的な解析ができると考えられる。この間に死亡したマウスの死因の同定を肉眼的及び病理学的に行っている。また病理標本の確保し、初年度に解析できなかったものを2年目以降に解析可能である。一部病理標本において、リンパ腫による死因が多いことを確認している。 4つの照射群の脾臓の確保ができており、今後はp53遺伝子の発現や機能としてのアポトーシスの発現等を解析できる資料を概ね整えることができている。 またmicroRNAの発現において、ヒートマップ上で4つの照射群による違いが認められたことができた。放射線バイオマーカーがある可能性が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
放射線適応応答による寿命延長効果を確実に評価できるように、8週齢p53遺伝子正常マウス、p53へテロマウス及び40週齢p53遺伝子正常マウスの数を随時増やし、4つの照射群において、寿命延長効果を統計学に有意になるようにしていく。 その際に死亡したマウスは肉眼的及び病理学的に死因を特定し、4つの照射群による違いを評価する。 microRNAの4つの照射群による違いが認められたことにより、今後は特異的なmicroRNAの候補を絞り出す。さらに特異的に発現するかをqRCRを行い、バイオマーカーとなりうるかどうかを同定していく。 今回の寿命の結果からすると、p53 遺伝子が重要な役割を示すことが示唆された。したがって、4つの照射群間でのp53遺伝子そのものの発現の違いやp53遺伝子の機能の一つであるアポトーシスの発現等を解析することを検討する必要があると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加旅費や人件費を使用しなかった。平成31年度は海外の学会に参加予定であり、そちらに利用する予定。
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