低線量放射線影響の科学的評価は難しい。あらかじめ低線量を前照射しておくと、のち高線量を被ばくしても、高線量単独の影響が軽減する現象(放射線適応応答)は、低線量放射線の影響を唯一科学的に評価できる。これまでにアポトーシスや奇形発生の減少を報告してきたが、DNA修復したのか、あるいは損傷や遺伝子不安定性が残存するかは不明であった。長期的に寿命を観察することにより、その検証できると考えた。 8週齢のp53遺伝子正常マウス、p53ヘテロマウス(p53遺伝子量が正常の半分)及び40週齢のp53遺伝子正常マウスに、0 Gy(対照群)、0.02 Gy、3 Gy、0.02 Gy照射96時間後3 Gy照射(0.02 Gy+3 Gy群)照射した。いずれのマウスも対照群と0.02Gy照射群は有意な差はなかった。8週齢のp53遺伝子正常マウスのみ、0.02+3 Gy群は3Gy単独照射群に対して寿命延長効果がみられた。放射線適応応答においてはp53遺伝子が重要な役割を果たす考えられた。 40週齢マウスでは、p53遺伝子機能の低下が考えられたため、p53遺伝子機能の一つであるアポトーシスの発現を解析したところ、0.02+3 Gy群と3Gy単独照射群で有意な差がみられなかった。8週齢マウスでは0.02+3 Gy群は3Gy群より有意に減少していた。このことからも放射線適応応答においてp53遺伝子が関与することが考えられた。 8週齢のp53遺伝子正常マウスに照射後、血清を用いてmicroRNAを解析したところ、4つの照射群で異なるヒートマップ像を得た。生体影響がないと考えられる0.02 Gyにおいても対照群と違いがあり、0.02 Gy+3 Gy群と3Gy照射群でも発現の差がみられた。今回は特定のmicroRNAをバイオマーカーとして示すことはできなかったが、その候補の可能性が示唆された。
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