研究課題/領域番号 |
18K07775
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
泉 雅子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 専任研究員 (00280719)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 重粒子線 / DNA修復 |
研究実績の概要 |
哺乳類細胞における重粒子線照射後のDNA二本鎖切断修復機構を明らかにするために、非相同末端結合に必要なDNA-PKと相同組換えに必要なRad51の阻害剤を用いて解析した。ヒト正常繊維芽細胞NB1RGB細胞やHeLa細胞をDNA-PKの阻害剤(NU7441)あるいはRad51の阻害剤(B02)で数時間処理した後に、X線や重粒子線(炭素線、アルゴン線)を照射し、DNA二本鎖切断の指標であるリン酸化型ヒストンH2AXのフォーカス数の経時的変化を蛍光抗体法により調べ、DNA修復効率を評価した。 いずれの細胞でも、DNA-PK阻害剤ではX線、重粒子線ともに照射後の修復反応が大幅に阻害されたのに対して、Rad51阻害剤はそれほど大きな影響を与えなかった。チャイニーズハムスターCHO細胞とCHO細胞を親株とするDNA修復タンパク質の欠損株を用いた解析でも同様の結果が得られており、X線、重粒子線ともに主要なDNA修復機構は非相同末端結合であることが示唆された。 また、NB1RGB細胞をG0期に同調し、DNA-PK阻害剤で処理してヒストンH2AXのフォーカスの変化を観察したところ、DNA-PK阻害剤処理によりDNA修復反応が阻害されることが判明した。対数増殖期のNB1RGB細胞をDNA-PK阻害剤、Rad51阻害剤で同時に処理してもゆっくりとDNA修復反応は進行し、非相同末端結合や相同組換え以外の代替的非相同末端結合が起きていることが示唆されたが、G0期ではこうした現象は観察されず、非相同末端結合のみが機能していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は静止期における重粒子線照射後のDNA修復経路を明らかにすることを目標としていたが、阻害剤を用いた解析により修復経路をほぼ明らかにできた。また、次年度以降に予定されている静止期の細胞における重粒子線照射のリスク評価に関しても予備的な実験を進めており、当初の予定通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
1.G0期におけるDNA修復機構の分子基盤の解析 これまでの解析から、対数増殖期では代替的な非相同末端結合が起こる可能性が示唆されているが、G0期では非相同末端結合のみが機能していることを示唆するデータが得られている。その分子基盤を明らかにするために、代替的非相同末端結合に必要と考えられているDNAポリメラーゼθ等の静止期における発現を生化学的手法により解析する。 2.G0期における重粒子線照射のリスク評価 静止期と対数増殖期のヒト正常繊維芽細胞に重粒子線やX線を照射し、修復のための時間をおいた後に、未成熟染色体凝縮法を用いて染色体異常(二動原体染色体、環状染色体、無動原体断片)の発生頻度を比較する。また、未成熟染色体凝縮を誘導した後に、FISH法を用いて染色体転座の発生頻度を比較し、静止期の細胞における重粒子線のリスクを評価する。 また、静止期の細胞に重粒子線やX線を照射した後、修復のための時間をおいてから対数増殖期に導入し、6-チオグアニン耐性を指標にしてX染色体上にあるヒポキサンチングアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子の突然変異率を測定し、対数増殖期の突然変異率と比較することを予定していたが、G0期に同調できるNB1RGB細胞では、6-チオグアニンでは選択できない(細胞の増殖は止まるが死滅しない)ことが判明し、別のマーカーを導入することを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:当初、リン酸化型ヒストンH2AXのみならず、各修復経路に特異的な他の修復タンパク質の局在も蛍光抗体法により解析する予定であったが、静止期において関与している修復経路が一つのみである可能性が示唆され、解析方法を簡略化した。また、加速器施設運営上の都合で実験回数が当初想定していたよりも少なかったため、照射後の修復タンパク質の局在を生化学的手法により解析する実験を次年度以降に延期し、当初の予定よりも試薬・培養器など消耗品の使用量が少なくなった。 使用計画:平成31年度中に、当初30年度に予定していた上記の生化学的解析を実施することを計画しており、主に細胞抽出液を作成するための試薬、ウエスタンブロットに用いる抗体、細胞培養試薬等の消耗品の購入に充てる予定である。また、一部の予算は照射作業の効率化のために、照射装置の改良に充てる予定である。
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