研究課題/領域番号 |
18K07783
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
松嵜 葉子 山形大学, 医学部, 准教授 (00292417)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | インフルエンザ / 呼吸器感染症 / 抗原変異 |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究で次のような実績を得た。 1.職員検診で半年ごとに採取された血清を用いてC型インフルエンザの抗体価を測定し、成人における5年間でのC型インフルエンザ再感染率を17.5%と算出した(論文発表)。抗体上昇がみられた時期は、小児でC型インフルエンザの流行が確認された時期にほぼ一致し、成人での再感染が小児におけるC型インフルエンザの流行に影響するという予測を裏付けることができた。また、抗原性の異なるサンパウロ系統と神奈川系統の株に対する抗体価をそれぞれ測定したところ、小児での各系統の流行時期に先んじて成人での抗体上昇がみられており、成人での再感染が免疫による選択圧に関与し、抗原性の異なる流行株の置き換わりに影響することを示すことができた。 2.流行拡大と重症化の要因として、表面蛋白であるHE蛋白上の中和エピトープの変異があげられる。そこで、中和エピトープに変異をもつエスケープ変異株の増殖実験を行い、C型インフルエンザウイルスの変異の可能性を解析した。その結果、レセプター結合領域に近接した中和エピトープJ14に変異をもつD269N変異株で極端な増殖低下がみられた。昨年度の研究で、流行拡大への関与が推測された190番目を含むHE蛋白頭頂部の190-loopの変異に関しては、S192L変異株の増殖は低下しないもののE193K変異株は増殖低下がみられた(論文発表)。これまでのサーベイランスで193番目に変異をもつウイルスは分離されていない。増殖実験の結果が市中での流行を反映する可能性を示すことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた研究実施計画について、実績概要に記したような成果を出すことができた。 成人の抗体調査を実施し、成人での再感染が小児の流行株の選択に関与するという仮説に科学的根拠を得ることができ、論文発表することができた。また、重症化要因の1つである抗原変異についても、増殖能と関連づけて考察し、論文発表することができた。一方で、毎年実施していたC型インフルエンザウイルスに対する抗体保有調査は、新型コロナウイルス対応のため今年度は実施できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
1.昨年度に引き続き、重症化要因として「抗原変異」「重複感染」「2歳未満の低年齢」の3つに絞り、C型インフルエンザ感染者の解析をする予定である。 2.昨年度は実施できなかった抗体保有調査を実施する。免疫による選択圧が隔年流行に影響していることを実証する。 3.令和2年度(2019-2020シーズン)に分離されたC型インフルエンザウイルスの抗原解析と遺伝子解析を実施し、隔年流行の実態を明らかにする。令和2年度はC型インフルエンザの流行する偶数年(2020年)だったが、新型コロナウイルスの感染予防対策に関連して流行は小規模なものになった。令和元年度に実施した山形県の抗体保有調査では、20代以降での神奈川系統株に対する抗体保有率の上昇を確認しており、小児の間で2020年以降に神奈川系統株が流行することを予測している。分離株が少ないため解析が困難ではあるが、これまでの成績と合わせて考察する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学術集会の開催が中止またはweb開催となり旅費の支出が無かったことと、予定よりも物品の購入を抑えたため、繰越金が生じた。繰り越した額は、令和3年度実施予定の研究の物品費として使用する予定である。
|